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国民を惑わす民間臨調のコロナ総括~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』
一般財団法人アジア・パシフィック・イニシアティブ(API)が、10月8日に「新型コロナ対応・民間臨時調査会」による新型コロナウイルス対策の検証報告書を発表した。
報告書では、新型コロナへの日本政府による対策には、総合的な戦略がなく、場当たり的だったと批判しているが、感染の抑制に成功して「結果オーライだった」という総括がなされた。私は、この総括は根本的に間違っていると思う。
民間臨調の報告書が結果オーライだとする最大の根拠は、欧米と比べて人口あたりの感染者数や死亡者数が抜群に少ないことだ。だが、よく知られているように、東アジアや東南アジア地域は、「ファクターX」と呼ばれる何らかの要因によって、新型コロナに感染しにくい。
実際、10月10日時点で人口100万人あたりのコロナ死亡者数を見ると、アメリカ653人、イギリス644人、フランス487人、ドイツ116人に対して、日本は13人とケタ違いに少ない。しかし、韓国5人、中国3人、タイ1人などと比べると、日本は圧倒的に多い。日本の死亡者数は、東アジア、東南アジアの中ではトップクラスの多さである。
つまり、日本のコロナ対策は、感染抑制という意味で最大の失敗を犯しており、結果オーライではまったくなかった。それを民間臨調は「ファクターXは、調査の対象としなかった」と切り捨てて、完全に無視しているのだ。
その構造は、経済面でもまったく同じだ。4~6月期の実質GDPの前年同期比を見ると、日本がマイナス9.9%であるのに対して、韓国はマイナス2.7%、中国に至ってはプラス3.2%となっている。都市封鎖はおろか、徹底的なPCR検査までも回避して、ずるずると感染を長引かせたことが、経済に致命的な打撃を与えたのだ。
政府の新型コロナウイルス対策に批判的な専門家の話は聞かず…
そうした事実をなぜ、民間臨調は無視したのか。私は、APIという独立系シンクタンクの存在自体が、「政府寄り」だからだと考えている。実際、臨調の委員には、大田弘子教授や野村修也教授という御用学者が名を連ねている。また、臨調は政府関係者や専門家83人を対象に、のべ101回のヒアリングを行っているが、その対象には、安倍晋三首相(当時)、菅義偉官房長官(当時)、加藤勝信厚生労働相(当時)、西村康稔新型コロナウイルス感染症対策担当相、萩生田光一文部科学相などの大物が含まれており、実際に回答を得ている。
私は、民間シンクタンクで長く働いていたが、純粋に中立的な研究のためにインタビューを申し込んでも、こうした大物が答えてくれることは絶対にない。調査に協力しているのは、APIが政府を擁護する報告書をまとめてくれるという、暗黙の了解があったからとしか考えられないのだ。
民間臨調の報告書が偏っていることの傍証は、まだある。83人もの専門家にインタビューをしながら、政府に批判的な専門家の話はそもそも聞いてもいない。例えば、「コロナの女王」と呼ばれる岡田晴恵教授には、コンタクトさえなかったそうだ。
メディアや野党は、日本学術会議の任命拒否ばかり取り上げているが、私はこちらの方が問題だと思う。日本のコロナ対策は、戦後最大の失敗だからだ。
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