本当に売春は悪いことなのか? 小説家・増田俊也「風俗嬢の地位を上げたいと思って書いた」

『警察官の心臓』講談社/2,450円(本体価格)
『警察官の心臓』著者:増田俊也(ますだ・としなり)
1965年生まれ。北海道大中退。小説家。2006年『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)で第5回「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞受賞。’12年『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で第43回大宅賞と第11回新潮ドキュメント賞受賞。’13年『七帝柔道記』(角川書店)で山田風太郎賞最終候補。

「反抗して新聞記者になって、今は小説家になってしまった」

――構想10年の大作です。警察小説を書こうと思ったのはなぜですか?
増田「僕の父は警察官だったんです。だから子供の頃から『警察官になれ』と育てられたのに、僕は反抗して新聞記者になって、今はこうして小説家になってしまった。
本当は警察官になりたかったんです。この年になってそれに気付いた。これは父への謝罪の意味も込めた作品です」

――殺された76歳の女性は東大卒の元アナウンサーで、現役の風俗嬢。社会の闇が明かされるにつれ、物語に引き込まれていきます。
増田「性風俗の現場について、世間は『悪いことだ』と決めつけてしまっています。作家として取材を重ねてきた僕は『本当に売春は悪いことなのか?』と強い疑問を持つようになった。
自分の人生は自分で決めていいはずです。だから風俗嬢の地位を上げたいと思って書いたのがこの作品です。
読者の方々からは『風俗嬢の現場の描写がリアルすぎる』という感想がたくさんきますが、信念があるからこそ僕も取材に力が入ったんです」

ミステリファンにとって衝撃的なラスト

――一方で警察の捜査も緻密に描写されているのがすごい。参考にした作品などはあるのですか?
増田「細密描写はジェイムズ・エルロイの『L・A・コンフィデンシャル』シリーズに影響を受けてます。一方で『ビバリーヒルズ・コップ』のテイストも入っている。
真逆の作風ですが、暗さも明るさも警察社会特有の空気だから、両方を盛り込みたかった。この2つをブレンドするのに時間と手間がかかっています」

――犯人を追い詰めていく終盤と、最後のどんでん返しは圧巻でした。
増田「このラストはミステリファンにとって相当な衝撃だったようです。これまでのミステリにはない展開ですからね。
もともと僕自身もミステリファンですから、自分で『こんな作品が読みたい』というものを書いたのです」

――すでに続編に着手しているそうですが、どのような内容になりますか?
増田「続編はもっと衝撃的です。一般人が飼っている虎が逃げ出して、その虎と警察官たちとの激闘が描かれるんです。
特殊部隊も出動しますし、警察のさまざまな銃器が出てきます。書いているだけでワクワクしてきますが、謎が謎を呼ぶミステリ要素も満載なので楽しみにしていてください。
僕の警察愛をこのシリーズ作品にぶつけていきますので、読者の皆さん、応援よろしくお願いします」

聞き手/程原ケン

「週刊実話」6月19日号より

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