『ぶぶ漬けどうどす』は深川麻衣のコメディエンヌぶりに要注目!

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【やくみつるのシネマ小言主義 第279回】『ぶぶ漬けどうどす』
京都の老舗扇子店の長男と結婚し、東京からやってきたフリーライターのまどか(深川麻衣)は、数百年の歴史を持つ老舗の暮らしぶりをコミックエッセイにしようと、義実家や街の女将さんたちの取材を始める。
ところが、「本音と建前」の文化を甘く見ていたせいで、女将さんたちを怒らせてしまう。反省したまどかは、京都の正しさ伝道師になるべく努力するが、事態は街中を巻き込んで思わぬ騒動へと発展していく。

「このテーマで映画を撮るのか!」

本心を隠して、愛想の良い言葉を発すると言われる京都人。

豊臣秀吉が市中に築いた土壁のせいとされる「洛中」VS「洛外」の住民ヒエラルキー。

このテーマで映画を撮るのか! という驚きと共に、大いに期待して見ました。

面白かったですねぇ。監督は当初、ホラーテイストのエンターテインメントを撮りたいと考えたそうで、「脚本が進むにつれてホラー度は減っていった」とパンフには書かれています。

けれど自分は、淀川長治さんの「怖いですね、怖いですね」という声が聞こえてきそうな、別種のホラーに仕上がっていると感じました。

京都の物理的・文化的な暗部が画面上からじわっと伝わってくる。その「じわり」具合が怖くて笑えます。

京都で450年続く老舗の扇子店の長男と結婚した主人公・まどか。

コミックエッセイ『京都老舗赤裸々レポート』の原作を作るために、義父母や街の女将さんたちを取材するフリーライターです。

取材のために奥の奥までヅカヅカと踏み込む設定をよく着想したものだなと。

所々に、相棒の安西ちゃんが描く「縦型漫画」が挟み込まれているため、エピソードがより怖く、面白く伝わってきます。

自分もまた、世間のよしなごとを漫画にする同業ですが、アイデアが生まれたらすかさずタッチペンで描き、間違えたらサッと消せる、今どきの仕事ぶりが羨ましかった。

昨日も、せっかく描いた原稿の上に修正液の瓶を倒してしまい、手がベトベトになって往生したところです。

PCでスマートに漫画を描くなんて、おそらく一生できない自分にとって本作は“未来映画”でもあります。

深川麻衣は今後の注目株!

さて、主人公を演じる深川麻衣さんのことを自分は知らなかったのですが、「彼女がいなければ撮らなかった」と監督が言うのも納得のコメディエンヌぶり。

今後の注目株ですね。

脇を固めるのは、義父母役の松尾貴史と室井滋。

さすがの安定感ある演技で、京都人が話す言葉のすべてに裏があるように見えてしょうがないほどです。

京都は世界中の人が最も訪れたい街。

バスにも乗れず宿も取りにくいオーバーツーリズムの噂を聞くにつれ少々ビビッていましたが、昨年夏、初めて祇園祭見物に参加しました。

宿も、食事も、祭りも全部入ったパックツアーです。

同行の方々も自分ら夫婦をさりげなく受け入れてくださり、サラリと声がけいただくくらいのいい距離感。

旅先で声をかけていただくのは歓迎で、むしろ楽しみにしているくらいなんですよ。

ぶぶ漬けどうどす
監督:冨永昌敬
出演:深川麻衣 室井滋 小野寺ずる
配給:東京テアトル
6月6日(金)テアトル新宿ほか全国ロードショー

「週刊実話」6月19日号より

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やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。