なぜ徳川家康は儒教を重視したのか? 江戸風俗研究家・堀口茉純「混沌の戦国時代を終わらせて天下泰平を実現させるため」

『論語と将軍徳川将軍15人と江戸時代を創った帝王学』講談社/1,600円(本体価格)
『論語と将軍徳川将軍15人と江戸時代を創った帝王学』著者:堀口茉純(ほりぐち・ますみ)
1983年、東京都足立区生まれ。幼少期より時代劇に親しむ。小学4年生のとき、司馬遼太郎の本に出会い、沖田総司に初恋。明治大学文学部卒業後に時代劇デビュー。以降女優として舞台やテレビドラマに多数出演する。’11年より江戸風俗研究家として江戸関連の著書を上梓し続けている。

儒学は理想の人間社会=天下泰平を実現させるための学問

――江戸に興味を持ったきっかけは?
堀口「子供の頃から祖父母と一緒にテレビで時代劇を見ていました。
当時は民放で『暴れん坊将軍』『水戸黄門』『大岡越前』、NHK大河ドラマで『春日局』『八代将軍吉宗』など、江戸時代が舞台の傑作を放映していたので、自然と好きになりましたね。
小学校4年生の頃には司馬遼太郎先生の『燃えよ剣』を読んで沖田総司に初恋をし、そこから完全に江戸時代沼にハマって現在に至ります」

――なぜ徳川家康は「儒教」を重視し、帝王学としたのでしょうか?
堀口「混沌の戦国時代を終わらせて天下泰平を実現させるためです。
戦国時代はチャンスがあれば下の人間が上の人間を殺す下克上が正当化されてきた時代。家臣が主君を、子が親を討つことが肯定されたことで、社会の混乱状態が100年以上続いていたわけです。
そんな時代を終わらせるためには秩序が必要でした。儒学は多くの人々が納得して秩序を守ることで理想の人間社会=天下泰平を実現させるための学問です。
絶対服従のイメージがありますが、江戸時代に広まった儒学は下の者が上の者を敬うのと同時に、上の者が下の者を慈しむことが重視されていました。だからこそ江戸時代、265年の長きにわたって支持されたんです」

江戸の魅力は「平和だったこと」

――徳川15代将軍の中で、一番好きな将軍は?
堀口「14代将軍・徳川家茂です!!
幕末の混乱期に将軍になった人ですが、とにかくめっちゃいい奴で、自分と政治的に敵対していた人たちにも儒学が重んじる“礼”を尽くして接することで、“調和”を実現させた人です!
ここでは語り尽くせないので是非、本書を読んでください(笑)」

――堀口さんにとって江戸の魅力とは?
堀口「平和だったことです。現在の日本を取り巻く国際情勢を見ていると『平和って長くは続かないんだな』と痛感します。
しかし、日本には長く続かないはずの平和が奇跡的に続いた時代がありました。それが江戸時代なんです。
人々が天下泰平を謳歌した時代には、和食、着物、歌舞伎、相撲、アニメ・漫画の原点である浮世絵など、さまざまな文化が発達し、現代の日本が世界に誇る宝物になっています。
また、儒学が将軍から庶民にまで広まったことで、他者に対する思いやりや親切、礼儀正しさなど、『日本人らしい気質』も育まれました。現代人が江戸時代から学ぶことは多いと思います」

聞き手/程原ケン

「週刊実話」6月12日号より

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