『秋が来るとき』はフランソワ・オゾンらしい美しくてミステリアスな1本

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【LiLiCoオススメ肉食シネマ 第311回】『秋が来るとき』
パリでの生活を終え、自然豊かなブルゴーニュで一人暮らしをしている80歳のミシェル(エレーヌ・ヴァンサン)。休暇で訪れる孫と過ごすことを楽しみに、家庭菜園で採れた野菜で料理やデザートを作り、親友とおしゃべりしながら森の中を散歩する日々を送っていた。
やがて、秋の休暇を利用して娘と孫が訪れるが、2人のために振る舞ったきのこ料理をきっかけに、それぞれの過去が浮き彫りになり…。

キノコのせいで何かが狂い始める

お仕事お疲れさまです。

今回紹介する作品を見れば、夏を通り越して秋を味わった気分になれるほど季節が美しく描かれています。

舞台はフランスのブルゴーニュ。静かな町や小道、建物を見るだけで心がほんわかします。

主人公・ミシェルの可愛い家の家具や小物、特にキッキンと自然光の温もりは本当に長年そこに住んでいたかのような味わい深さです。

映画好きの皆さんにはお馴染みでしょう。フランソワ・オゾン監督の作品です。

私も2001年から『王様のブランチ』(TBS系)の映画コーナーを担当してるので、あの頃に劇場公開された『8人の女たち』は強く印象に残ってます。

そこからの『スイミング・プール』や『エンジェル』などたくさんの作品を生み出してきたオゾン監督ですが、久々に彼らしい、美しくてミステリアスな1本が生まれました。

80歳のミシェルには娘と孫がいます。離れて住んでいるので遊びに来てくれるときは何よりも幸せな時間。特に孫のルカに会いたくて、2人で豊かな自然を散歩したりするなど、とても仲がいい。

娘とは壁を感じながらも、まぁよくある母と娘のフラットなお付き合い。

そんなある日、娘と孫が遊びに来てくれた嬉しさから、キノコ狩りに行き、素敵なお食事を用意するミシェル。しかし、そのキノコのせいで娘は病院送り…ここから何かが狂い始める。

ワザと毒キノコを食べさせたのでは? と主張する娘。何が起こったのかが分からなくてパニックになるミシェルに見えるが…。

飛び交う言葉は真実なのか、優しい嘘なのか

そして、この家族だけではなく、ミシェルの親友マリー=クロードの存在も大きい。

彼女の息子は刑務所から出所したばかり。何とか人生をやり直したい彼に、ミシェルは優しい気持ちで庭の手入れなどをお願いする。

ミシェルと娘との悩みを聞いたりしていた彼は、あるとき、その娘のところへ向かう。

この美しく静かな町では何も起こらなさそうだけど、水面下では、いろんな葛藤や悩み、そしてミシェルの過去が明らかになります。

起こる事件が全部ミシェルの思いの方向へと動くのが不思議。

これは偶然なのか必然なのか、誰かがとんでもないことを裏でしてるのか、飛び交う言葉は真実なのか、優しい嘘なのか。

この作品を見てからだいぶ経ちますが、ずっと考えている私。これって、オゾン監督の思うつぼかもね。

秋が来るとき
監督・脚本:フランソワ・オゾン
共同脚本:フィリップ・ピアッツォ
出演:エレーヌ・ヴァンサン、ジョジアーヌ・バラスコ、リュディヴィーヌ・サニエ、ピエール・ロタン
配給:ロングライド、マーチ
5月30日(金)新宿ピカデリー、 TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

「週刊実話」6月12日号より

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LiLiCo(リリコ)

映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。