『マリリン・モンロー 私の愛しかた』にマリリンマニア・やくみつる感謝「いいものを見せていただきました」

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【やくみつるのシネマ小言主義 第278回】『マリリン・モンロー 私の愛しかた』
36歳の若さでこの世を去った女優のマリリン・モンロー。『ナイアガラ』や『紳士は金髪がお好き』などでスターダムを駆け上がり、「セックスシンボル」として広く知られた一方、派手なことを好まずイメージに徹して振る舞い続けた。
親の愛に恵まれなかった幼少期や性的虐待を乗り越え女優を夢見ていた頃、典型的なセクシーブロンドのイメージから抜け出せずにいた大スターの苦悩、そして謎多き死の真相にも迫る。

「これほど悲しい映画はない」

いやぁ、いいものを見せていただきました、と思わず感謝したくなる映画です。

昨今、そっくりにメイクした女優に演じさせる伝記映画が多い中、これは1本丸々、マリリン本人の映像と証言者のインタビュー、その時々の風景や街のシーンで構成されたドキュメンタリーです。

監督はすべての書籍、世界中のアーカイブ映像に目を通して矛盾点を検証し、本当の彼女の姿や生い立ち、数々の恋愛遍歴、死の真相まで映像に焼き付けています。調査には12年もかけたそうです。

初めて見る映像もたくさんあり、それらがあまりにもキレイな色で再現されているのでAI画像かと錯覚するほど。と同時に、これほど悲しい映画はないと思いました。

自殺なのか他殺なのか、短かすぎる36年の幕切れだけでなく、里子に出された幼少期、性的虐待の傷、ピンナップガールから女優へとのし上がる過程でいろんな男たちに翻弄され…と、ずっと悲しいんです。

また、深い孤独の中での死後、1人で葬儀を手配したのは、DV離婚された後も愛し続けたジョー・ディマジオだったという切ない話もあり、稀代のコメディエンヌの光と影に胸を締め付けられ、「お辛かったでしょう」と、自然と合掌したくなります。

注目すべきは、マリリンの側面を語るインタビュー部分です。

「眼鏡をかけている人が好き」にどれだけ勇気づけられたか

ジェーン・ラッセルやジェリー・ルイスなどすでに亡くなったスターや、ウエスト・サイドストーリーのジョージ・チャキリス(92歳!)など貴重映像が続々と。

さらには、幼い頃に預けられていた里親の娘が初めて語る「家族」像も明らかとなります。

生誕99年、当時を知る人は少なくなったものの、今なお愛され、監督がパンフで語っているように「SNSの中で生きている」。この映画で価値を再認識してもらえたらと思います。

さて、なぜこんなにも熱く語っているかというと、自分もまた“マリリンマニア”だからです。

私が3歳のときに亡くなっているので、もちろんリアルタイムではないのですが、中学のとき、東京・渋谷東急文化会館にあった東急レックスで『帰らざる河』を見て以来のファン。

『お熱いのがお好き』でのマリリンの「眼鏡をかけている人が好き」という台詞に、中坊だった自分はどれだけ勇気づけられたか。

今も、ケネディ大統領の誕生日に歌った声を再生できる50センチのマリリン・フィギュアを居間に飾っておりまして、自分はその声マネができるほど聞き込んでいます。

マリリン・モンロー 私の愛しかた
監督:イアン・エアーズ
出演:マリリン・モンロー、トニー・カーティス、ジェリー・ルイス、ジョージ・チャキリス、ジェーン・ラッセル
配給:彩プロ
5月30日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、シネ・リーブル池袋、新宿シネマカリテ、アップリンク吉祥寺ほか全国ロードショー

「週刊実話」6月5日号より

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やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。