NHK大相撲中継・藤井康生アナ“豊昇龍の横綱昇進”に想いを吐露

『大相撲中継アナしか語れない土俵の魅力と秘話』東京ニュース通信社/1,600円(本体価格)
著者:藤井康生(ふじい・やすお)
1957生まれ。岡山県倉敷市出身。’79年NHK入局。大相撲アナとして’88年から’22年までNHKの本場所中継を担当。競馬中継やオリンピック、甲子園中継でも名高い。現在はフリーアナウンサー。

「アナウンサーが楽しまないと視聴者は楽しめないよ」

――大相撲中継のどこに面白さ、魅力を感じますか?
藤井「幼い頃から大相撲が大好きでした。世の中にテレビが普及し始めた1960年、同居していた祖父の希望で我が家にもテレビが入りました。
以来、大相撲が始まると祖父の胡座の中で食い入るように大相撲中継を見ていたそうです。大相撲の魅力は一言では語り尽くせません。
その歴史と伝統、他の競技にはないしきたりや奥の深さ、日本の文化としての側面もあります。行司の装束や化粧まわしをはじめとする様式美には引きつけられます」

――大相撲中継で心掛けていたことはありますか?
藤井「大相撲中継の中では、競技としての勝負はもちろんですが、歴史に育まれた大相撲の深さを少しでも表現したいと常に考えています。
そんな中で、30代も半ばの頃、ある先輩から『藤井くん、大相撲は基本的には娯楽なんだよ。アナウンサーが楽しまないと視聴者は楽しめないよ』と助言されました。
以来、放送席にいても客席やテレビの前の皆さんと同じように、大相撲を楽しみながら放送することを心掛けています」

驚きに満ちた2度の「貴花田―寺尾」戦

――藤井さんにとって思い出の一番は?
藤井「実況担当の中で、『思い出の一番』を挙げるなら、’91年春場所11日目の『貴花田―寺尾』戦です。
まだ18歳の貴花田が初日から10連勝、ついに11日目には小結・寺尾との対戦です。激しい突っ張り合いから貴花田が寺尾のお株を奪って会心の勝利。敗れた寺尾が花道の奥でさがりを床にたたき付け、タオルをたたき付けて悔しがる様子は30年以上経った今も目に焼き付いています。
しかし次の場所、今度は寺尾が貴花田得意の四つ相撲で雪辱を果たします。ここに寺尾の意地を見ました」

――豊昇龍の横綱昇進には賛否両論がありました。どのように思いますか?
藤井「大相撲も新しい時代に入りました。豊昇龍の昇進には賛否両論がありますが、私自身は『横綱審議委員会』の議論がどこまで尽くされたのか、そこに疑問を感じています。
わずか8分で全会一致の推挙になるとは、世間の好角家の感覚とあまりにも乖離しているようにしか思えません。ただ、推挙された豊昇龍には何の問題もありません。
新横綱の場所こそつらい思いをしましたが、昇進したからには堂々と横綱・豊昇龍の相撲を突き詰めてほしいと思います。満員札止めが続く相撲界です。今こそ、手に汗を握るような熱戦を数多く見たいものです」

聞き手/程原ケン

「週刊実話」5月29日号より

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