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北朝鮮は「聖書」が禁断の書! キリスト教徒労働収容所行きの実態…

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米連邦議会は1998年、外国で宗教活動を理由に迫害された個人を擁護するため「国際信教の自由法」を制定した。この法律により米国務省は「世界各地における信教の自由に関する年次報告書」を公表している。

「2020年12月、米国務省は北朝鮮や中国、イラン、サウジアラビアなど10カ国を信教の自由が侵害されている『特定懸念国』に指定しました。特に北朝鮮は19年連続で『特定懸念国』に指定されており、本年末に20年連続を記録するのは間違いありません。バイデン政権は人権問題をことさら重視しているので、北朝鮮は厳しく指弾されることになるでしょう」(国際ジャーナリスト)

報告書は、北朝鮮で信教の自由が侵されている実例として「ほぼすべての宗教活動と関連した人物を処刑、拷問、逮捕し、身体的に虐待している」と指摘しており、実際に信じられないような事件も起きている。

「20年3月に咸鏡南道の新浦で、女性が聖書を持っていただけで処刑される事件が起きています。この女性はキリスト教を信仰していたわけではなく、聖書も家財の中に埋もれていたのですが、偶然それを見つけた知人が当局に密告してスパイ容疑で逮捕されました。北朝鮮では〝お守り〟のように聖書を持つ慣習があり、信者でなくても隠し持っている場合があるのです」(北朝鮮ウオッチャー)

北朝鮮政府は宗教の中でも突出してキリスト教を忌み嫌い、信者のみならずキリスト教関係者に接触するだけで処刑を含めた極刑を下している。人類史上最大のベストセラーである聖書も、北朝鮮では「禁断の書」なのだ。

その場で射殺されることも…

北朝鮮でも、表向きは憲法で「信教の自由」が保障されているが、それは国際社会の批判をかわすための建前にすぎない。宗教、とりわけキリスト教を弾圧しているとなれば、欧州諸国と関係を構築する上で深刻な問題が起こるため、事実を隠蔽しているのである。

国際非政府組織(NGO)の推計によれば、北朝鮮では19年末の時点で5万~7万人のキリスト教徒が収監中と報告されている。

また、韓国の脱北者団体が今年3月に発刊した書籍には、金正恩政権による厳しい取り締まりにもかかわらず、キリスト教の地下教会で活動している信者は最大50万人に達すると記されている。

「北朝鮮でキリスト教徒であることが発覚すれば、政治犯として労働収容所に収監されるか、極端な場合、その場で射殺されます。憲法で信教の自由が保障されているとはいえ、別項には『宗教が外部勢力を引っ張り込んだり、国家、社会的秩序を害する口実に利用されたりしてはならない』と盛り込んでおり、この条項をもって信教の自由や表現の自由、思想・良心の自由などの権利を著しく制限しているのです」(同)

弾圧は北朝鮮人民だけでなく、北朝鮮を訪問する外国人にも加えられている。15年に布教活動を目的に訪朝した韓国系カナダ人のヒョンス・リム牧師は、同地で敵対行為を働いたとして身柄を拘束され、無期労働教化刑(無期懲役に相当)を科せられ服役。その2年後、健康状態の悪化を理由に釈放されている。

歴史的に見ると、南北に分断される以前の北朝鮮地域は、南部の韓国地域よりキリスト教が盛んで、首都である平壌は「東洋のエルサレム」と称されていた。

“現人神”の上にキリストが存在してはまずい…

「実は、正恩氏の祖父・金日成主席の母親である康盤石の名は、新約聖書に出てくる『使徒ペテロ』にちなんでの命名とされ、父親もキリスト教系の学校に通っていました。また、金日成氏が教会に通っていたことは、彼自身の回顧録でも述べられています」(北朝鮮に詳しい元大学教授)

北朝鮮当局がキリスト教に容赦ない弾圧を加えるのは、地下で活発な活動をしているキリスト教団体が、脱北者を支援して韓国に亡命させたり、国内に伝道師を潜入させたりするケースを排除するためだが、それにしても〝建国の父〟と崇められる金日成氏がキリスト教に感化されていたとは意外である。

「北朝鮮は最高指導者を神格化し、その絶対的な権威のもとで国民を支配しているが、〝現人神〟の上にイエス・キリストが存在してはまずいと判断するのは当然。一時的にせよ最高指導者がキリスト教を信仰していた事実の裏返しが、今日の弾圧につながっているのでしょう」(同)

韓国の文在寅大統領が、北朝鮮の人権侵害、宗教弾圧に対して、沈黙を貫いているのも問題だ。

「文氏は人権派弁護士出身でカトリック信者。また、金大中、盧武鉉という文氏の師匠筋に当たる左翼政権のトップも、カトリック信者です。南北融和のため正恩氏の顔色をうかがっているのかもしれませんが、同じ民族の人権が政治や外交の犠牲になっていいはずはありません」(前出・国際ジャーナリスト)

平壌にはローマ・カトリック教会の象徴たる長忠大聖堂や、特定教派に属さないプロテスタント系教会などが存在している。しかし、それぞれは北朝鮮に信教の自由があることを示すため、政府の思惑のもとに開設された施設で、平壌以外の地域に住む人民には存在すら知られていない。

国際社会において、北朝鮮の宗教弾圧に対する批判がなお一層高まれば、〝金王朝〟の基盤を大きく揺るがすことになるだろう。
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