『金子差入店』は丸山隆平の演技が光る巧妙な人間ドラマが見事

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【やくみつるのシネマ小言主義第277回】『金子差入店』
刑務所や拘置所に収容された人への差し入れを代行する「差入屋」を営む金子真司(丸山隆平)。ある日、息子・和真(三浦綺羅)の幼なじみの女の子が殺害される事件が発生。彼女の死にショックを受ける一家だったが、犯人の母親が差し入れをしたいと尋ねてくる。
差入屋として犯人と向き合いながらも、日に日に疑問と怒りが募る金子。そんなとき、毎日のように拘置所を訪れる女子高生と出会う。彼女は自分の母親を殺した男との面会を求めていた。 2つの事件の謎と向き合ううちに、金子の過去が明らかになり、 家族の絆を揺るがしていく。 

構想11年の完全オリジナル脚本

昨今、原作ありの映画が多い中、本作は完全オリジナル脚本です。

なんと構想11年、練りに練っただけあって人間関係が巧妙に入り組んでいて見応えがあります。

古川監督が助監督時代に、刑務所や拘置所に収容された人に差し入れを代行する「差入屋」という職業を知ったことがきっかけとのことです。

退職代行や家事代行などさまざまな「代行」が注目されていますが、差入代行は世の中には知られていないけれど、絶対に無くすことができない職業だと思ったそう。

自分も2時間ドラマなどでたまに見ることがあり「そういう店があるのだな」と知ってはいたのですが、そこを舞台にするという着想が面白いし、当然、一筋縄ではいかない事情が絡み合う物語になるのも納得です。

差入屋を営む主人公の金子真司もまた、人に言えない収監歴を持ち、暴走しがちな激情をグッと押さえ込みながら、よき父親、夫として生き直そうと努力しています。

演じるのは『SUPER EIGHT』(元関ジャニ∞)の丸山隆平。どこにでもいそうな男の中に潜む、さまざまな顔がリアルです。

まぁ、監督の中で主人公である金子の性格をこれだけ細かく設定しているからこそ、いろんなエピソードが生きてくるのでしょうね。

「想いまで差入代行する」のが物語のキモ

特に印象的なのが、名取裕子演じる毒親とのエピソード。若い男を追いかけ回して、ろくな育て方をされていなかったことが彼の性格形成にも影響しているだろうし、縁を切ろうと思っても結局できない母と息子の関係にも普遍性を感じてうまいなぁと。

見終わってから、差入屋について調べたんですが、検閲が通った手紙の差し入れは認められているんですが、「手紙の代読」までOKかどうかは、行き着けていないんです。

なので、収監者に向かって淡々と代読しながら、「想いまで差入代行する」のが物語のキモの一つ。さすが11年間、よく考えられています。

さて、先日、番組で名取裕子さんとご一緒する機会があり、「『金子差入店』、見ましたよ」と申し上げると喜んでおられました。

パンフレットにも、名取さんが監督に「なぜ、私なの?」と聞かれて「今までにない役を演じる名取さんの演技力のすごさを見せたかった」と書かれています。

自分が思うに、60代後半になっても若い男を追いかけ回す役ができるのは、ひとえに肉感的だからでは。

「さもありなん」と感じさせる現役感は、名取さんか、同年生まれのかたせ梨乃しかいないと断言いたします。

『金子差入店』
監督・脚本:古川豪
出演:丸山隆平、真木よう子、三浦綺羅、川口真奈、北村匠海、村川絵梨、甲本雅裕、根岸季衣、岸谷五朗、名取裕子、寺尾聰
配給:ショウゲート
5月16日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国ロードショー

「週刊実話」5月22日号より

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