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前田日明「アントニオ猪木なら何をやっても許されるのか!」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

前田日明
前田日明(C)週刊実話Web

これまで日本プロレス史に残る数々の名フレーズを残してきた前田日明。取ってつけたような上っ面のセリフではなく、心の底から発した「ガチ」の言葉だからこそ、多くのファンの心を捉え、今なお記憶に刻み込まれているのだろう。

「熱心なファンと徹底したアンチ、どちらも多いのがスターの証拠」とはよく言われることだが、プロレス界における前田日明はその代表的な一人であろう。

前田のアンチが揶揄することに「一度もガチの試合をしたことがない」というのがある。

ここでガチというのは現在の総合格闘技的なものを指してのことで、確かにその通り、前田は同様のルールでは試合をしていない。前田が〝新格闘王〟と呼ばれる契機となったドン・中矢・ニールセンとの異種格闘技戦(1986年10月9日)にしても、後年になってニールセンは新日本プロレス関係者から「盛り上げるために、早い時間でのKOはやめてくれ」との指示をされたと話しており、純然たる真剣勝負ではなかったようだ。

しかし、だからといって前田を〝ガチ未経験〟と評するのは、いささか公平性に欠けよう。前田が選手としてのピークの頃には、そもそも総合格闘技の概念がなく、ビジネスとして成立していなかったからだ。

そんな中で前田は、自身が育ってきたプロレスの延長として闘ってきたわけで、この頃のスタイルについては「若い頃に習ったプロレスをやっていただけ」との趣旨の発言もしている。

アントニオ猪木に強烈なハイキック一閃!

その真意は、世間から八百長などと舐められないプロレスをするという、アントニオ猪木の提唱してきたストロングスタイルに通じるものであり、少なくとも第1次UWFが新日と提携していた時代、前田にはプロレスを破壊する意図はなかった。

ただ、前田の特異な点は真面目さが過剰になってしまうところで、熱心なファンは前田のそうした部分に惹かれるのだろう。それは、ハードな攻撃を繰り出すことだけにとどまらず、インタビューやマイクアピールなどでの発言においてもたびたび表出した。

1986年2月6日、UWFの代表者決定リーグ戦を勝ち上がった藤原喜明と猪木の試合は、終始、猪木のペースで進んだ。藤原が関節を極めにいっても、猪木は「効いていない」「技の角度が違う」と、藤原を格下扱いするようなアピールをしてみせた。

攻めに回っても藤原の下腹部へ蹴りを放ち、セコンドの前田らが「金的だ」と抗議しても、猪木はまったく気に掛けようともしない。最後は反則スレスレのパンチを繰り出し、チョークまがいのスリーパーホールドで藤原を絞め落とした。

猪木の非道な攻めの数々に怒った前田は、猛然とリングに飛び込むと、まさに勝ち名乗りを上げようとしていた猪木に強烈なハイキック一閃。見事に喉元を打ち抜いた。

そして、倒れ込む猪木を尻目に控室へ戻った前田は、「アントニオ猪木なら何をやっても許されるのか!」と言い放ったのだった。

新日本プロレスの“根本”に言及した前田

この一連の出来事を改めて振り返ると、基本的には予定通りの流れであったと推察できる。

まず、UWF代表を決定した一戦で、前田はスリーパーで藤原を絞め落とす寸前、同時に極められていた足固めでギブアップという現実にはまず起こり得ない敗北を喫している。

これは、前田の格を落とすことなく藤原を勝ち上がらせ、猪木VS前田を対抗戦の目玉として後々まで引っ張っていくという興行的な意図があってのことに違いなく、結果からしても前田自身が、それを受け入れていたと理解できる。

猪木が藤原戦でヒール的な振る舞いをしたのも、UWF勢との次なる闘いを意識してのことで、試合後の前田の乱入も同様の意図からの行為だったろう。

しかし、それでいて前田が凡百のレスラーと異なるのは、ハイキックにしてもギリギリか、それ以上のところを狙っていくことで、その後のコメントにしても同様だ。

普通なら「絶対に許さない」「猪木がそうくるならコッチもやってやる」ぐらいの言葉になりそうなものだが、前田の場合は〝猪木が新日において絶対的な存在である〟という根本に疑問を投げかけてみせた。

たったひとつのフレーズで、猪木やそれを取り巻く会社の体制をぶった斬る。ある意味でガチな言葉のチョイスをしたわけである。

《文・脇本深八》

前田日明
PROFILE●1959年1月24日生まれ。大阪府大阪市出身。身長192センチ、体重115キロ。 得意技/キャプチュード、フライング・ニールキック。

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