『教皇選挙』は次なるローマ教皇を決める権力闘争と陰謀、スキャンダラスな集票工作を暴いた禁断の映画【やくみつるのシネマ小言主義第275回】

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現実のローマ教皇が一時は深刻な病状と伝えられていたが、ようやく退院された折、最もアンタッチャブルな教皇選挙を題材にした本作。ミステリーとして大変面白いのですが、「これ、映画にしていいのか?」と、まず思いました。

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製作は2024年。欧米では公開済みかもしれないのですが、日本での公開は3月。あまりにタイムリーすぎる。

全世界に14億人の信者がいるとされるカトリック協会の最高指導者であるローマ教皇が死去した後、次期教皇を選ぶための教皇選挙「コンクラーベ」。世界中から100人以上の枢機卿がバチカンに集まって、秘密裏に執り行われてきた選挙の内幕を暴いてしまったのですから。

聖職者とは思えないドロドロの権力闘争は、どこまでが誇張で、どこが「こんなものでは済まない」点なのか、こちらは知るよしもありませんが、よくもここまで切り込んだものです。

ま、政治という大きな世界から日本相撲協会という小さな規模の集団まで、権力闘争はあるもの。

せめて宗教家だけは公明正大に、と思うものの、差別や陰謀、スキャンダルの暴露とベタな票獲得工作が続いて、人間臭いったらありゃしない。

これがもし本当なら、歴代の教皇をどういう目で見ればいいのやら。いずれはある次の「コンクラーベ」がどのような手続きに則して行われるのか、耳目を集めるでしょうね。

たった1本の映画が、カトリックの長い歴史の分岐点になるかも。異教徒である我々も関心を払わずにいられません。

そして映画の結末、新教皇が誕生した後の衝撃は、誰も想像し得ないアバンギャルドさ。実に今日的です。

相撲協会の内幕もドラマ化できそう

本作は自分も枢機卿の1人になったつもりで、誰に投票するか、それはなぜなのか、理由を考えながら見るのがおすすめです。

また、精緻な美術や衣装も見どころです。

投票場所となるシスティーナ礼拝堂は当然撮影禁止なため、ローマの撮影所で大かがりなセットが組まれたそうです。

枢機卿たちの緋色の衣装も、敢えてのオリジナル。候補者のキャラが引き立つようにデザインされているので、密室劇あるあるの「誰が誰だか分からない」状態にはなりません。

ところで、日本相撲協会内の選挙も、ドラマ化できそうなくらい色々あります。

例えば、18年の貴乃花の理事選挙での落選。あれほどの結果を残した人物でも協会を追われるような形で出ていくことになリました。

圧倒的な男性社会でのパワーゲームは、俯瞰で見ると滑稽にも見えますね。

教皇選挙
監督:エドワード・ベルガー
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
配給:キノフィルムズ
※TOHOシネマズ シャンテほか全国公開中

全世界14億人以上の信徒を誇るキリスト教最大の教派・カトリック教会。その最高指導者でバチカン市国の元首でもあるローマ教皇が死去し、新教皇を選ぶ教皇選挙「コンクラーベ」が行われる。100人を超える候補者たちが世界中から集まる中、ローレンス枢機卿(レイフ・ファインズ)が教皇選挙のまとめ役を務めることになり、密室での投票が始まるが…。

「週刊実話」4月17日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。