麻薬王が性別適合手術を受け女性に…『エミリア・ペレス』は罪と救済、愛と憎しみが交錯する極上映画【LiLiCoオススメ肉食シネマ 第306回】

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この作品は、間違いなく2025年で最も心に残る1本となるに違いない!

全く新しいミュージカル・エンターテインメントは衝撃でした。

ミュージカルが苦手な方が多いのは知ってますが、そんな理由で見なかったら本当にもったいない!

まぁ、確かに突然歌い出したりするのがミュージカルです。

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しかし、私は歌などはほとんど記憶に残ってない。

なぜなら、歌がそれだけ物語に溶け込んでいるから。もっと言えば、ミュージカルがどうのというより、ストーリーがすごかったです。

麻薬王マニタス(カルラ・ソフィア・ガスコン)の子供の頃からの夢は、女性として生きていくこと。自分は死んだことにして、かつて妻だったジェシーと2人の子供たちにマニタスの姉と偽り、再度近づく。

この関係性が緊張感に満ちていて、いつバレるのかドキドキしながら、その切なさたるや、心の痛みがとにかくすごかった。

この話をどう完結させるのか楽しみで見ていましたが、私の想像を何倍も超えてました。

麻薬王マニタスが女性として生きられるための完璧なプランを依頼される弁護士のリタ。そこから数年経って再会するところから、物語が一気に動き出す。

依頼されたときはかなり強引でしたが、マニタスと真摯に向き合い確実なレールを敷いたリタだったので、マニタスがエミリアに改名するなど、その信頼は厚かった。

アカデミー賞助演女優賞を受賞

面白いことに、マニタスがエミリアになったことで、麻薬王としてやってきた悪いことへの罪を感じ、世のために良いことをたくさんして世間からも注目されます。

するとリタの人物像も変化していくのです。

『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』や『アバター』のゾーイ・サルダナがリタ役を人間臭く演じてくれます。

ゾーイはアカデミー賞で助演女優賞を受賞しました。

そして、私が一番興奮したのは、マニタスの妻、ジェシーを演じたセレーナ・ゴメス。海外のゴシップ誌が好きならご存知でしょうし、多くの作品に出演してます。

しかし今回の彼女の演技はお見事!

元旦那が亡くなって“いとこ”として近づいてくる。

人生を立て直すためにジェシーは一生懸命に強く生きる。

エミリアを、まさか自分の元夫とは夢にも思わない…。

もちろんエンディングは言えないけど、心の中で感じたことを、ぜひとも大切にしてください。

エミリア・ペレス
監督・脚本:ジャック・オーディアール
出演:ゾーイ・サルダナ、カルラ・ソフィア・ガスコン、セレーナ・ゴメス、アドリアーナ・パス
配給:ギャガ
※3月28日(金) 新宿ピカデリーほか全国ロードショー

弁護士リタは、メキシコの麻薬王マニタスから「女性として生きるために新たな生活を用意してほしい」という極秘の依頼を受ける。リタの完璧な計画により、マニタスが性別適合手術を受けることによって生じる問題をクリアされ、手術も成功し、男性としてのマニタスは消息を絶つことに成功する。数年後、イギリスで新しいスタートを切ったリタの前に、エミリア・ペレスという女性が姿を見せ…。

「週刊実話」3月27日号より

LiLiCo(リリコ)

映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。