渡る病院は鬼ばかり!? 業界歴30年以上のベテラン看護師が暴露した「医療現場」の途方もなく“深い闇”



悪いのは深刻な人手不足と劣悪な労働環境

「その日は産気づいた妊婦さんがいつもより多く、さらに緊急の帝王切開が入って産科スタッフは完全に人手不足状態でした。手が回らないだけでなく、目も行き届かない状態の中で、半分物置になっているような空病室で待機させられていた妊婦さんが1人で出産してしまったんです。バタバタしていたスタッフはその妊婦さんのことを忘れていたようです。私は出勤直後、空き部屋になっている病室に明かりがついているのを不審に思い、中に入ってぐったりしている母子を見つけました。すぐに医師を呼びに行きましたが手遅れでした。母親は出血多量、赤ちゃんはへその緒が首に巻き付いていて仮死状態で生まれていたようです。どちらもすぐに適切な処置を施していれば助けられるはずでした」

その無念さもさることながら、A子さんは母子の死因を改ざんして遺族に報告し、責任逃れのために医療ミスを隠蔽した病院側を許すことができず、数日後に退職届けを出している。

「その次に働いたのは小児専門病院でした。十分な人手と手厚い看護、最先端の医療設備で知られており、スタッフも患者さんも安心して治療に臨めるという環境だったんですが、ここでも以前、夜勤のスタッフが見回りを怠ったため、嘔吐した子供が吐しゃ物を喉に詰まらせて窒息死すると言う事件があったそうです」

A子さんは「落ち度を認めずに隠蔽に走る病院」に対して強い抗議の気持ちを持ちつつも、「医療現場の深刻な人手不足と劣悪な労働環境が事件や事故の誘因に繋がっている」と訴える。

「一番の原因は業務内容に見合っていない給料の安さです。だから人手が足りないし、人手が足りないから休みもとれなくて激務になるわけです。トイレにも行けず、食事もできず、睡眠もとれない環境で働き続けるのは自分の命を削るようなものです。政府は高額医療費負担制度の引き上げとか、バカなことを言う前に医療従事者の待遇改善に当たって欲しいと思います」

この声が関係省庁に1日も早く届く日が来ることを祈るばかりである。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。