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『騎虎の将 太田道灌』(徳間文庫:幡大介 上下各880円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊

『騎虎の将 太田道灌』(徳間文庫:幡大介 上下各880円)~本好きのリビドー/悦楽の1冊 
『騎虎の将 太田道灌』(徳間文庫:幡大介 上下各880円)

三十年戦争といえば高校世界史の授業で出てくる17世紀ドイツの宗教戦争だが、中世の日本にもそれに匹敵する、長きにわたり続いた戦争があった。その割に知名度はいまいちな『享徳の乱』だ。

京都を焼け野原にした果てに争う双方の大将とも途中で没し、闘いの目的も意味も不明になった悪夢の応仁の乱でさえ11年。これをはるかに上回る何と足かけ28年の歳月を費やして、東国を舞台に延々と展開されたもので、複雑怪奇な情勢をあえて地理的にざっくり要約すると〝栃木・茨城・千葉〟vs〝群馬・埼玉・東京・神奈川〟の構図となる。

いわば室町版の「関東連合」が東西に分かれて抗争を繰り広げる渦中にあって、西関東に勢威を張った管領(将軍・公方の補佐役)上杉家に家老職として仕えたのが太田道灌こと資長。江戸に城を築いて〝東京の父〟でもある彼の縦横無尽の活躍を描く本書、読者に向け時代相を的確に紐解きつつ、活劇の面白さも存分に味わわせる手際が見事に鮮やかで興趣が尽きない。

落語をさりげなく生かした演出が心憎い

しかし合戦シーンの連続に接して思うのは道灌の不遇。知略を巡らせ、いくら良策を献じても、上司である主君が採用してくれなければ参謀役は施す術なしな訳で、煮え切らぬまま負け戦をこれでもかと繰り返す上杉一門(山内、扇谷、犬懸、越後と支流がありややこしい)を、ひたすら耐えて支える彼が気の毒になってくる。昔のプロ野球で例えれば国鉄の金田、ロッテの村田で、どれだけ投手がすごくても味方打線が火を噴かねばどうにもならぬのと同じ。そりゃあ、たまには「ケツの穴の小さい男だ!」(下巻334ページ)と怒鳴り散らしたくもなろう。落語『道灌』でおなじみのエピソードを物語にさりげなく生かした演出も心憎い。

(居島一平/芸人)