飲食店チェーン店長が明かす外食産業の暗黒…「実働18時間」「結婚式当日も勤務」



新婦は自ら結婚指輪をはめ、1人で誓いの言葉を…

それでも飯田さんには仕事を頑張らなければならない理由があった。

「僕には将来を誓った女性がいました。彼女も食いしん坊で、いつか僕が開発したメニューを食べることを夢見ていたんです。彼女の夢を叶えるためにも、僕はどんなにつらくてもくじけるわけにはいかなかったんです」

幸い、そんな飯田さんの勤務態度は評価され、入社して1年10カ月目に本部勤務の内示が出された。

それをきっかけに恋人との結婚も決まり、「おめでたづくし」へと人生が好転しかかったが、そうは問屋が卸さなかった。

「ちょうどその頃、複数の新店舗のオープン作業に駆り出されていた僕はかつてないほど多忙を極めていました。信じられないと思われるかもしれませんが、結婚式の当日まで出勤させられたんです。そのせいで挙式には間に合わず、3時間を予定していた披露宴には1時間しか出席できませんでした」

「新郎不在」という前代未聞の挙式は新婦が自分で結婚指輪をはめ、1人で誓いの言葉を述べるという異例のものだったらしい。

「妻の意地だったようですが、その話を聞いて心がえぐりとられるようでした」

披露宴が終わった後もすぐに職場に戻らねばならなかったため、予定されていたハネムーンもキャンセル。その後、なぜか本部異動への話も立ち消えになったという。

そのため、前途多難のスタートを切った飯田さんの結婚生活は、案の定長くは続かなかった。

「家には寝に帰るだけで夫婦の時間もない。妻としては『蔑ろにされている』と感じても不思議はなかった。半年もたたないうちに家を出て行きました」

去り際に妻が残した「いつか、アナタの開発したメニューがお店に並んだら連絡してね」という言葉を支えに飯田さんはその後も仕事にまい進したが、結局本部への異動は叶わぬまま、2年半後に退職したという。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。