資格のない保育士を増員、防災設備もハリボテで公的補助金を喰い尽くすブラック保育園の“強欲経営”

画像はAIで生成したイメージ
「運が悪いのか見る目がないのか分からないけど、これまで勤務した託児所とか保育園がみんなブラックでした」と深いため息をつくのは元保育士の木村美穂さん(仮名・34歳)。

美穂さんは北関東の某短大保育科を卒業後、地元の認可保育園に就職するも、あまりにブラックな環境に辟易して2年で辞めている。

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「地域では唯一の保育園だったのでもともと入園希望者は多かったんですが、私が就職した時期は、宅地開発の関係で一気に人口が増えた年だったこともあって例年以上の希望者がいたみたいです」

本来ならばキャパ以上の入園は断るのだが、金儲けに目がくらんだ(と思われる)理事長はクラスを増設したり、臨時の保育士を雇い入れたりして、急遽受け入れ態勢を整えたらしい。

「と言ってもほとんどが付け焼刃です。増築した園舎は見た目だけ可愛くしただけのプレハブだったし、正式な保育士ではない職員もいました。つまり資格のない人間を保育士として雇い入れていたんです。無資格とはいえ、この仕事に就くくらいですから、基本的にみんな子供好きでしたけど、やっぱり専門教育を受けていないので指導力や責任感が欠如しているんです。有資格者がそれを園長に訴えても『理事長の方針』だと言って譲らないし、理事長は理事長で『資格があるかないかはマニュアルを学んでいるかどうかの違い。保育はマニュアルではなく心でするものです』みたいなわけの分からないキレイごとを言ってごまかすんです。そうは言っても現場で自己流の保育をする自称・保育士の尻ぬぐいをするのは私たち有資格者。給料も同じだし、やってられません」

名前だけの「不燃壁」に「不燃床」

ちなみに資格のない保育士たちのために、理事長や園長が知り合いの休眠保育士(現場を離れている有資格者)の資格を借りて登録し、帳尻を合わせていたというから悪質だ。

「田舎なので役所関係のチェックも甘かったんでしょうね。防災設備もハリボテでした。名前だけの『不燃壁』に『不燃床』、水の出ないスプリンクラー。昭和時代からあるという噂の消火器。廊下に積み上げてある『緊急持出袋』の半分は中身がゴミ。備蓄食料やミネラルウォーターの類はとっくに賞味期限が切れてるし、耐震構造とか『どの口が言ってるんだ?』みたいな感じでしたよ。保育自体は楽しかったけど、自称・保育士に振り回されることにも疲れたし、園児や保護者たちを騙している罪悪感にも耐えきれませんでした。私と同じような理由で辞めて行った保育士が何人もいますが、ちゃんとした人材を補充したのかどうかは怪しいですね」

次に美穂さんが勤めたのは認可託児所だったが、ここも環境は劣悪だったという。

「架空の栄養士が作った献立表はあるものの、実際に出るのはレトルトや冷凍食品ばかりでした。一応保育マニュアルはありましたがまったく活用されず、園児は放置状態。ケガをされたら困るので身体を使うような遊びや体験はさせず、テレビを見せたりおもちゃで遊ばせていました。保育士もスマホをいじってばかりでした。保育とは名ばかりで放し飼い状態の子供たちを見ているのがいたたまれなくて辞めました」

その後も美穂さんは公立の保育所や私立のこども園などを渡り歩いたが「まともな施設は一か所もなかった」という。

「教材費や施設費を多めに徴収して中抜きするのは当たり前で、園児の数を偽装して公的補助を不正受給するところもありました。一番許せなかったのは園児の事故や職員による虐待を隠蔽していた施設ですね」

すでに保育の現場からは離れている美穂さんだが、近いうちに自治体に告発することも考えているという。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。