宮藤官九郎脚本の“移住エンタメ”映画『サンセット・サンライズ』はコロナ禍の南三陸が舞台【やくみつるのシネマ小言主義第第270回】

(C)楡周平/講談社 (C)2024「サンセット・サンライズ」製作委員会
昨年は流行語大賞に「ふてほど(不適切にもほどがある!)」が選ばれ、『季節のない街』『新宿野戦病院』などTVで話題作が目白押し。東北が舞台となったエンタメ脚本を書かせたら右に出るものなしの宮藤官九郎が手がけた映画が新年早々に登場です。

【関連】ジェイソン・ステイサムが復讐に燃える『ビーキーパー』は気分がスカッとするキレッキレのアクション映画【LiLiCoオススメ肉食シネマ 第302回】 ほか

震災、コロナ禍、人口減少、空き家問題、移住と地方が抱える社会問題を描きつつ、笑わせたかと思うとしんみりさせ、さすがメリハリの利いた展開にグイグイと惹き込まれます。

配役もドはまりしていますね。東京の大企業で働きながら、偶然見つけた南三陸の空き家物件で憧れの移住ライフを始め、釣り・魚・人への「好き」を貫く主人公役に菅田将暉。

そして地元のマドンナ的存在に井上真央。彼女も30代後半女性を演じる年頃になったという感慨とともに、大人の俳優へとうまくポジション取りしてきたと感じました。

ポジション替えと言えば、往年のシティボーイ風だった中村雅俊も73歳。宮城県の漁師町出身ですから、東北被災地の心を表現するジジイ役にはうってつけです。

老年役の俳優が次々と鬼籍に入る今、今後はこのポストで活躍するのでしょうね。

ビートきよしもいい味を出しています。

さて、最近、ブーム化している移住による田舎暮らし。自分は長野県の番組に関わっているのですが、子育てサポートなど移住者誘致の取り組みやその成功体験を数多く見聞きする反面、馴染めずにめげて帰っていく人や、後悔しながらそのまま住み続けている人の話も少なからず聞きます。

これぞ宮藤官九郎脚本の真骨頂!

本作の中では、よそ者の男が地元のマドンナを射止めるまでに、どんないがみ合いが続くのかと思いきや、意表をつくほどの地元メシの“もてなしハラスメント”で仲間に入れていく心地いい作り方をしていました。

まず、相手の胃袋を支配して仲間になるのは、一つの鉄則。「ハモニカ焼き」がうまそうだからと三陸を訪れる人が増えてくれればよいなと。

しかし、何でもハッピーエンドにするのではなく、オリジナルの家族のありようを提示していくあたりが興味深い。

当然ながら予定調和にはなりませんのでお楽しみに。

そして、「2週間隔離」だの「東京の人は来てくれるな」だの、コロナ狂想曲ともいえるドタバタを入れて、渦中にいた頃は分からなかった滑稽さをプラスするのは宮藤脚本の真骨頂。

亡くなった方もいらっしゃるので風化できないはずなのに、遠い昔のことのように感じていた自分に気づきました。

サンセット・サンライズ
脚本:宮藤官九郎
監督:岸善幸
出演:菅田将暉、井上真央、中村雅俊、三宅健、池脇千鶴、竹原ピストル、山本浩司、好井まさお、小日向文世ほか
配給:ワーナー・ブラザース映画
1月17日(金)全国ロードショー

新型コロナウイルスのパンデミックで世界中がロックダウンに追い込まれた2020年。リモートワークを機に東京の大企業に勤める釣り好きの晋作(菅田将暉)は、4LDK・家賃6万円の神物件に一目惚れ。何より海が近くて大好きな釣りが楽しめる三陸の町で気楽な“お試し移住”をスタート。仕事の合間には海へ通って釣り三昧の日々を過ごし、持ち前のポジティブな性格と行動力で癖のある地元民に溶け込んでいく晋作だったが、その先にはまさかの人生が待っていた――!?

「週刊実話」1月30日号

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。