5月7日の記者会見で菅義偉総理は、5月11日までとしていた3回目の緊急事態宣言の期間を5月末まで延長すると発表した。「短期集中で強い対策」を打つことにより、一気に感染抑制を実現するとした当初の目標は、実現できなかった。
野党は、緊急事態宣言の失敗を強く批判しているが、国民のほとんどが2週間あまりの短期決戦で感染が収束できるとは、考えていなかった。少なくとも私の周囲には1人もいなかった。理由は2つある。
1つは、緩い規制だ。今回の緊急事態宣言では、酒類を提供する飲食店と床面積1000平方メートルを超える大型施設への休業要請が出されたが、1年前の最初の緊急事態宣言と比べれば、はるかに休業した店は少なかった。その結果、ゴールデンウイークの新幹線や飛行機の利用者は、前年に比べて数倍の混雑となった。高速道路も長い渋滞が発生した。自粛慣れした国民をコントロールするには、弱すぎる規制だったのだ。
もう1つの理由は、変異ウイルスだ。1年前、新型コロナは繁華街で感染するものだったが、変異株によって日常生活でも感染するようになった。その証拠に5月8日の新規陽性者数は、地方の15道県で過去最多を記録している。
しかし、緊急事態宣言の延長は、本当に政府の「失敗」だったのか。例えば、西村康稔経済再生担当大臣は、5月3日に出演したテレビ番組で、変異株は「屋外でマスクをしていても感染する」と発言している。これまでの3密回避、マスク、手洗いという基本対策が通用しないという認識があるのに、緩い対策を続けている背景には、感染を長引かせてもよいという思惑があるのではないか。
“緩い感染対策”の真の狙いとは…
菅政権の発足直後から、立命館大学の松尾匡教授などが、「コロナショックドクトリン」という言葉を使い始めている。「ショックドクトリン」というのは、惨事便乗型資本主義のことで、ジャーナリストのナオミ・クライン氏が、同名の著書で使った言葉だ。
戦争や大規模災害で社会が混乱する中、どさくさ紛れに経済改革と称して過酷な市場原理を導入する。それが、構造改革派の市場原理主義者たちが用いる常とう手段なのだ。
菅政権の経済政策は、生産性を上げることを中心に据えている。その手段は中小企業の再編だ。大企業の生産性は中小企業のほぼ2倍。だから、中小企業を整理淘汰して、解放された人材や資本や市場を大企業に集約する。1997年に通貨危機に陥った韓国で、IMF(国際通貨基金)が断行した構造改革策である。
実際、菅総理は着々と手を打っている。昨年10月には成長戦略会議を発足させ、委員には元ゴールドマン・サックスのデービッド・アトキンソン氏や慶大名誉教授の竹中平蔵氏を任命した。アトキンソン氏は、中小企業再編論の急先鋒だ。
企業支援も昨年は持続化給付金として、売上高が一定の減少に至った企業を一律に支援したが、今年の事業再構築補助金は、構造改革を行う企業に限定したものになっている。
今のところ、企業倒産が激増しているわけではない。しかし、それはコロナ対策で資金繰り支援を強化しているからだ。しかし、自粛が長引けば、借金が膨れ上がって倒産が激増する。緩い感染対策は、それを狙っているのではないか。
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