極妻が離婚の手切れ金を元手に不良少年&少女の更生施設を作った驚きの理由【アウトローたちの仰天ライフ1】



ヤクザのダンナは「自分の首を絞める」と猛反発

母親の心配通り、極妻となってからの千尋さんの生活は決して恵まれたものではなかったという。

「ダンナは飲む・打つ・買うの人で、金銭トラブルや女性関係のもめ事は日常茶飯事。毎日のように仲裁に入ったり、土下座して回っていました。敵も多くて、私まで常に身の危険を感じていました。『亭主の世話がおろそかになる』という理由で子供がデキても生ませてもらえなかったし、借金で首が回らなくなった時は質屋通いをしたり、トラックの運転手をしてお金を稼ぎました」

「若気の至り」を後悔しても後の祭り…そんな時に思い出すのが疎遠になっている母親のことだった。

「結婚して10年ぐらいたった時です。興信所を使って母を探したら、すでに亡くなっていたことが分かりました。孤独死だったようです」

弔いのため、母親の生前の生活をたどっていた千尋さんは、母親が養護施設で働いていたことを突き止める。

「母はそこで子供たちの世話係をしていたようです。実の親のように親身に面倒を見ていたと聞かされました。問題を抱えた子たちに私の姿を重ねていたのかも知れない…そんな風に考えたら切なくなりましたね」

「これも何かの縁」と施設の運営を手伝うようになった千尋さんは、やがて自分でも施設を立ち上げたいと考えるようになった。

「母の遺志を継ぎたいと思ったんです。元非行少女で、現極妻である私にしかできないやり方で少年少女を救いたい、と」

ただし、これにはダンナが大反対。

「『そういう少年少女を食い物にしている自分らが更生を手助けするなんて、自分で自分の首を絞めるようなもんじゃねえか』って(苦笑)。でも逆にダンナのこのセリフで私の決意が固まったというところもあります。私がやろうとしていることは、ダンナがこれまで地獄に送って来た少年少女たちに対する贖罪も兼ねられるんだって思ったんですよ」

その後千尋さんは弁護士を立てて離婚。ダンナからの財産分与を元手に『X』をオープンさせたのだった。

「もう7年くらいになります。これまで何百人という少年少女と関わって来ましたが、正直、力及ばずということも何回もありました。自己満足とか偽善とかよく言われますけど、それで良いと思っています」

「やらない善よりやる偽善」とはよく言ったものである。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。