チェーンとは名ばかりの個人経営店として独自の発展を遂げた―高円寺『和田屋』【男がほれる酒と肴「ホの字酒場」第12回】

“店の年輪”のように増え続けるメニュー。先代が店を始めて40年以上。2代目とは親子ゆえ言葉遣いはぶっきらぼうで、それがまたいい。
高円寺は夢を追う若者の街だが、金がないのは仕事に追われるおじさんも同じ。だから安くてうまい店には老若男女が集う。

麻布十番にあった居酒屋が『和田屋』の源流だ。だが20年前に本店がなくなってから、チェーンとは名ばかりの個人経営店として独自の発展を遂げた。その結果が壁一面に張られた大量のメニューだ。
分厚いハムカツ(530円)はこの店の名物の一つ。
「品数が増えたのは息子が手伝うようになってからだね」

常連の多くは新鮮な魚介類を目当てに口開けから席を埋めていく。
テーブル4つにカウンター3席とこじんまりとした店内。予約する客も多い。
「スーパーで買うよりも安いしうまい」と仕入れを担当する2代目は胸を張るが、注文したマグロの中落ちを見れば、その言葉に嘘はないことが分かる。
脂の乗った本マグロの中落ちが530円。チューハイ(400円)はかなり濃いので、3杯も飲めばベロベロだ。
魚と合わせる酒にもこだわる。日本酒は常時15種類以上を用意。ホッピーを頼むと氷入りグラスのギリギリまで焼酎が注がれる。初めての客は最初に驚き、そしてニヤッとする。
2代目が考案したさばみそグラタン(630円)は和洋折衷の味でどんな酒にも合う。
「うちのお酒に慣れると、他の店で飲むと薄く感じちゃうんですって」

会計を終えて外に出ると、若者が入れ違いに中に入っていった。タイミングが良ければ待たずに入れる。これが街の名居酒屋の在り方だ。
『和田屋』
東京都杉並区高円寺北3-2-19
03-3336-6889
営業時間17時~23時
休み:不定休

撮影・文/キンマサタカ
「週刊実話」10月3日号より