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『HOKUSAI』/5月28日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義

『HOKUSAI』/5月28日(金)より全国公開〜やくみつる☆シネマ小言主義
Ⓒ2021 HOKUSAI MOVIE

『HOKUSAI』
監督/橋本一
企画・脚本/河原れん
出演/柳楽優弥、田中泯、玉木宏、瀧本美織、津田寛治、青木崇高、辻本祐樹、浦上晟周、芋生悠、河原れん、城桧吏、永山瑛太、阿部寛
配給/S・D・P

日本のみならず、海外の画家にも大きな影響を与えた歴代随一のアーティスト、葛飾北斎。「神奈川沖浪裏」のあの特徴的な波の絵が、2020年発行のパスポート、24年の新紙幣にも採用されることが決まり、ますます注目が集まっている天才絵師の生き様を、柳楽優弥と田中泯のダブル主演で描いた見応えある大作です。

当時の寿命の倍近くの90歳まで精力的に描きまくった作品の中でも、有名な「北斎漫画」は、現代の漫画のルーツとも言われています。北斎の「描かねばならぬ、描きたいのだ」というエネルギーに比ぶれば、漫画に対する自分の姿勢は、あまりにいい加減。個人的には先人に対して申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

とはいえ、SNS全盛の今、「自分の〝好き〟を主張したい!」という万人の飽くなき欲望は、もしかしたら北斎に源流があるのかとも思いました。

ただ、自分も北斎のように90歳まで描けたら楽しいだろうなとも思います。とてもその歳まで生きるとは思えないのですが、自分のような末端にいる者でも、60歳をすぎて、コツを掴んできた感があるんです。

北斎漫画から続く「1コマ漫画」の系譜

もともと、文章を書くより絵を描く方が早いのですが、昔はそれでも苦労してひねり出していた気がします。ところが最近は、ネタ出しも絵もアッという間にできてしまい、締め切りのずっと前に描き上がることがほとんどです。基礎も何もないまま始めた稼業ですが、齢を重ねたからこその境地があるのかもしれません。

とはいえ、自分の生業の一つ、新聞の「時事漫画」は約120年の歴史があるものの、もはや風前の灯。朝日新聞では89歳、80歳、62歳の3人が輪番で担当していますが、その最年少が自分。もっと言うと、最初は4人だったのに、最高齢だった作家さんは他界。補充もされず、さすがにまずいと20年以上も前からメンバー更新を提案し続けていますが、描き手がいないんです。

そもそも、若い人は新聞を読まないし、「1コマ漫画」自体を知らないんじゃないか。毎年、高知県で開催されている「まんが甲子園」は、高校のまんがクラブの生徒たちが1つのテーマで競作して勝負する大会ですが、その多くは「1コマ漫画」の体を成していない。つまり、北斎漫画から続く「1コマ漫画」の系譜を、まさに自分が途絶えさせようとしているわけです。

時事問題に突っ込んだり、茶化したりする自分の作風は、爆笑問題やナイツなどの時事ネタ漫才と近いものを感じます。絵の得意な芸人さんに「1コマ漫画」を継承してもらえないものかと思うこの頃です。

やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。

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