妊活まっしぐらな夫に危機感を感じてピルを服用「子なし生活」に愛着を持つ妻が仕掛けた秘密の攻防戦



ピル入手のために禁煙も断行

また、そのピルを処方してもらう際には「実はヘビースモーカーだった」という恵美理さんは、医者から「喫煙者は血栓ができるリスクがあるから処方できない」と言われて禁煙するようになったという。

「三度のご飯より好きなタバコをやめるくらい、妊娠したくなかったんですよ。もともと『妊娠出産に影響が出たら困る』と禁煙を勧めていた夫はめっちゃ喜んでいました。まさか避妊のための禁煙だとは夢にも思ってなかったんでしょうね」

「子供が生まれた時のために」とそれまで乗っていたスポーツカータイプの愛車をファミリー用のミニバンに買い替え、妊活と育児、両方に備えて体力作りのためにジムにも通い出したという夫。

対する恵美理さんは夫にピルが見つからないように、毎日隠し場所を変え、絶対に夫がいない時間帯に服用するルーティンをこなしていた。

「夫婦の攻防戦ですよね。『正常な夫婦生活を行っているにもかかわらず2年間妊娠しない』のは不妊の定義にあたるそうなんですけど、我が家はもう6年です。さすがに焦ったのか、去年あたりから『病院で検査を受けよう』と夫が言い出しました。私は『そんなことをして、もしどちらかに原因があると分かったら夫婦の関係にヒビが入りそうで怖い。子供は授かりものだというし、もう少し待ちましょう』とか言って引き延ばしています。私が子供を持っても良いと思える時期まではピルは飲み続けます」

そんな恵美理さんも30歳の大台に乗り、夫の方はアラフィフだ。そろそろ「解禁」しても良い頃だと思うのだが、恵美理さんにはまだその気はないらしい。

「ピルを止めてもすぐに妊娠できるとは限らないし、仮に妊娠出産が30代の後半になったりしたら、それはそれで大変そうじゃないですか? 私は夫婦ふたりの今の生活が気に入っているし、いっそこのまま子供を持たないのもアリかな?なんて思い始めてます」

「夫に内緒で避妊手術を受けてもいいかな…」

そんな怖いことも口にする恵美理さん。我が子を抱ける日を指折り数えて待っているであろう夫が、さすがに気の毒になってくる。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。