大規模都市開発で金に目のくらんだ子供が勝手に親の土地を売却…現代に出現した“姥捨て山”の恐怖



邪魔な年寄りは施設に収容

X氏は「高齢者は私どもの施設で引き取りましょう」と持ち掛けた。ちなみにX氏の運営する老人ホームの母体は精神科病院である。

これが何を意味するのか、当時の関係者A子さん(70代)に話を聞いてみた。

「要するにXさんは邪魔な年寄りを認知症かその類の疾患に仕立てあげて、施設に収容しようということだったんです。そうすれば相続人が土地を自由にできるという話でした。法的なことはXさんのところの顧問弁護士がなんとかしてくれる、みたいな話でしたね」

このX氏の申し出をA子さんの家族は断っているため、それ以上の詳しい事情は分からないというが、実際、X氏が地主の家族に接触するようになってから近隣の高齢者たちが次々と同氏運営の施設に入所し始めたという。

「その頃からですね、誰ともなしにXさんの施設を『姥捨て山』と呼ぶようになったのは。周りも自然に事情を察したんだと思います」

ただし、都市開発の方は急激に土地の買収が進んだことで、開発事業がスタート。それに比例して地主の次世代家族らは次々と姿を消してしまったという。

「当時親しくしていた、近所のジイちゃんバアちゃんや、ママ友、子供たちがいなくなり、私たち家族はとても寂しい思いをしたのを覚えています。うちの土地は開発地域の端っこだったので結果的に買収されずに済んで土地も家族も守ることができましたが、中心地域のところには悪質な地上げ屋も関わっていたと聞きますから恐ろしいです。それでなくても、もし家族の誰かがお金に目がくらんでいたら、Xさんの『悪魔のささやき』に耳を傾けていたのかも知れない、と思うとぞっとします」

後年、他県に移り住んだA子さんは古い友人を訪ねて故郷を訪れることもあるそうだが、「生まれ育った田園風景が別世界のように整備されて、立派な商業施設が立ち並んでいる景色を見ると複雑な気持ちになる」という。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。