エンタメ

『探偵はここにいる』(駒草出版/1650円)~本好きのリビドー/昇天の1冊

『探偵はここにいる』(駒草出版/1650円)~本好きのリビドー/昇天の1冊
『探偵はここにいる』(駒草出版/1650円) 

探偵という職業は、ドラマや映画に登場し、とてもドラマチックに描かれる。だが、『探偵はここにいる』(駒草出版/1650円)を読むと、そのリアルは非常に地道であり、半面、人間の赤裸々な裏の顔を生々しく知ってしまう、特殊な仕事であることが分かる。

まず、依頼される仕事のほとんどは、浮気調査だという。しかも、以前は妻が夫の不倫を疑うケースが大半だったが、今では夫からの依頼が日ごとに増えている。

また、夫が妻の行動を不審と感じたときは、すでに不倫が現実のものとなっていて、手遅れである場合が多いという。しょせんは一般人だから脇が甘く、プロの探偵が調査すれば、すぐに尻尾をつかまれてしまうのだ。

探偵の前にはプライバシーなどない

対して探偵は、存在を気づかれてはならないゆえ、地味である。地味だが、凄みがある。本書には9人の探偵が取材に協力し、経歴もさまざまだが、地味ゆえにかえって不気味な人間像が伝わってくる。

最も興味深いのが調査報告書の内容だ。誇張や推測は一切なく、淡々と不貞の事実のみが記される。調査対象者は姿を現さない探偵に、顔はもちろん職場や自宅の住所、場合によってはスマホのメールの中身まで、丸裸にされている。離婚裁判や慰謝料請求の際に、言い逃れできない証拠をそろえるのが探偵の仕事だからだ。探偵の前にはプライバシーなどない。

それでも不倫は後を絶たないと、本書は語る。それも人の「業」だからだろうか…。

(小林明/編集プロダクション『ディラナダチ』代表)