生成AIで母の自殺理由を探求する『本心』は現実とバーチャルの境界がせめぎ合うヒューマンミステリー【やくみつるのシネマ小言主義第266回】

なぜ、その違いは起きたのでしょうか。
映画の設定は2026年前後。少子高齢化が進み、社会保障制度が破綻した社会は「自由死」を選べるように。主人公の池松壮亮は田中裕子演じる亡き母の生前のデータを基にAIと仮想現実技術で「バーチャルフィギュア(VF)」として蘇らせます。
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貧しい息子の職業は「リアル・アバター」。カメラを搭載したゴーグルを装着し、黒いリュックを背負って依頼主の指示されるままに行動する姿は、今の街を走る「ウーバーイーツ」の配達員にそっくりです。
近未来の話ですが「もう始まっている」怖い映画だ、と感じてしまいました。
生成AIだのバーチャルリアリティだのを駆使した世界は、一体どこに向かっているんだ。
ついこの間、できた概念のくせにすさまじいスピードで進み、人間と社会をのみ込もうとしている。
多くの方は多少の不安を感じながらも、進化がもたらす可能性にワクワクと期待感を持っているのでしょう。
豪華キャストの演技も見どころ
ところが、デジタル化の波に心を閉ざしている自分。同じような人は本誌の読者の方々には、いくらかでもいらっしゃるのではないでしょうか。
といっても、今や電車の中では、いい年をしたおやじもスマホを見ている。
そういうことすらできないまま「自分が生きている間は新しいことはやらなくていいや」と決め込んでいる私のような人間は、現実とバーチャルの境界がすっかり曖昧になった世界から目を背け、耳も塞いで、「そんなわけないじゃん。ゴーグルをかけて見えた母親を現実と思わせる、そんな技術が何の役に立つんだ」とつぶやくばかりです。
本作のどこに一番抵抗を感じたかというと、故人のSNSなど、データをなるべく多く提供すれば「バーチャル母」の完成度が上がるという点。たかだかその程度で、1人の人間が出来上がるわけがない。
これまで出会った何万の人、体験の記憶や感情の蓄積が人を形作っているはず。
そこさえ丁寧に描かれていたら、興味深いSFだと納得できたかもと思えるのは、贅沢すぎるキャストのなせる技。特に仲野太賀、妻夫木聡、綾野剛の3人でなければ違和感を感じていたかもしれない役柄を見事に体現していました。
価値観の違いそうな人と見に行き、意見を交換されることをお勧めします。
本心 監督・脚本:石井裕也
出演:池松壮亮、三吉彩花、水上恒司、仲野太賀、妻夫木聡、綾野剛、田中泯、田中裕子
配給:ハピネットファントム・スタジオ 11月8日(金)TOHO シネマズ 日比谷ほか全国ロードショー
工場で働く石川朔也(池松壮亮)は、同居する母(田中裕子)から「大切な話をしたい」という電話を受ける。帰宅を急ぐ朔也は、豪雨で氾濫する川べりに立つ母を見つけ助けようと飛び込んで昏睡状態に陥る。1年後に目を覚ました彼は、母が「自由死」を選択して亡くなったことを知る。新たに就いた仕事をきっかけに、仮想空間上に任意の人間を作るVF(バーチャルフィギュア)という存在を知った朔也は、母の死んだ理由を探るため、開発者の野崎(妻夫木聡)に母のVFを作って欲しいと頼むが…。
「週刊実話」11月21日号より
やくみつる
漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。
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