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コロナ禍“缶詰市場”激化! 5000円松坂牛も3倍増~企業経済深層レポート

企業経済深層レポート (C)週刊実話Web

数年前からブームの兆しがあった缶詰が、巣ごもり需要で売り上げ増に拍車がかかり、2020年度は対前年比20%から25%も伸びたという。想定外の新型コロナウイルスのまん延で、缶詰の簡便、即食といった備蓄以外の利便性が、あらためて評価された格好だ。

今年も水産缶、素材缶、果実・デザート缶、畜産缶など、各カテゴリーの売り上げは順調に推移しているが、このまま缶詰需要は伸び続けるのか、そして、どこに向かうのか探ってみた。

缶詰需要が急増した要因について、フードアナリストが解説する。

「コロナ禍による消費の大変動に直面している缶詰市場だが、まず昨年4月、最初の緊急事態宣言が発令された前後に、買いだめによる受注急増が発生しました。未曽有の混乱に焦った消費者が、備蓄食糧として缶詰の確保に走ったのです」

その後、市場の過熱は沈静化したものの、家庭における食事機会の増加を背景に、備蓄から「家飲み」のつまみ、手間暇かけない料理素材へ需要がシフト。また、お家ごはんやオンライン飲み会といった新たな食シーンが生まれたことも、缶詰需要の追い風になったとみられる。

最大カテゴリーの水産缶は、一大サバ缶ブームが2019年秋を境に一服したが、コロナ禍でサバ缶にイワシ缶、サンマ缶などを加えた青魚系が復活。ひときわ健康面が重視される中、ピーク時を超える売り上げを記録している。

「サバやイワシなど青魚は、DHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)を多く含むとされる。DHAの効能としては、認知症予防、動脈硬化の原因となる悪玉コレステロールの予防などがあり、さらに、抗酸化力(さび取り効果)が高いことでも注目されている。また、EPAには動脈硬化、心筋梗塞、脳梗塞などを防ぐ、血液をサラサラにする成分が多く含まれています」(同)

“家飲み派”も十分満足

過去、この効能がテレビなどで盛んに取り上げられたことで、多くの消費者がサバ缶を買うためスーパーなどに殺到した。缶詰自体が身近な健康食品として認知されてきたことも、コロナ禍で再びスポットを浴びた背景にあるだろう。

缶詰需要の実態について、食品や酒類の総合卸売業、国分グループ本社(東京都中央区)の広報担当者が生の声を聞かせてくれた。

「昨年、果実・デザート缶は、年間で対前年比二桁も伸びました。畜産缶も対前年比で大きく伸びた。お酒のつまみとして売り出されている『缶つま』シリーズも好調です」

果実・デザート缶の好調は、巣ごもりで「もうひと手間かける食材」に多用されていることが理由。そして、好評の『缶つま』シリーズは、昨年3月が対前年比130%増、4月は同140%増と売れに売れた。

フードライターが絶好調の『缶つま』シリーズを分析する。

「2010年に販売開始された『缶つま』シリーズは、開発者が全国各地を訪れて素材を厳選し、製法やアレンジにもこだわり抜いた。1缶平均500円前後と決して安価ではないが、これまでなかった高付加価値の缶詰というジャンルを確立。松阪牛を使用した5000円の缶詰が、昨年は対前年比で3倍も売れました」

これは高級おつまみ缶詰として本物の味を追求した結果、舌の肥えた家飲み派を十分満足させた証しといえる。

国分の『缶つま』シリーズの売れ行きを見て、ほかのメーカーも続々と高級おつまみ缶詰に参入してきた。例えば、明治屋(東京都中央区)の『おいしい缶詰』シリーズは、「広島県産かき」や「牛すじ肉の赤ワイン煮」などをそろえ、昨年は対前年比150%と売り上げを伸ばしている。

トドやアザラシのジビエ缶も

さて、今年の後半から来年以降、缶詰メーカーや卸売業者は新たな戦略をどう描いているのか。経済紙記者が解説する。

「コロナ禍で先行きが不透明な中、各企業とも当面は巣ごもりや家飲みが続くとみており、販売にも力が入る。例えば、JR秋葉原駅の高架下にある『日本百貨店しょくひんかん』は、缶詰350種類を1カ所に集めてコーナー販売したところ、一気に売り上げが3倍に伸びたという」

一方、数年前から人気を呼んでいるジビエ缶は、従来のイノシシやシカに加え、最近はトドやアザラシまでラインアップされている。各企業とも、あの手この手で攻めているのだ。

前出の国分グループ広報担当者が、今夏以降の展開を明かしてくれた。

「3密回避の意味もあり、ソロキャンプなどアウトドア志向が強まっています。そのブームを受け、昨年9月にキャンプと缶をもじった『K&K〝CAN〟Pの達人』シリーズを販売開始しました。パエリアの素となる缶詰やホットサンドの具となる缶詰が好評で、今夏はこのジャンルにさらに力を入れる予定です」

長引くコロナ禍によって、日常の暮らしはもちろん、働き方やレジャーも大きく変わってきた。それにマッチした商品開発を含め、缶詰商戦は今後もヒートアップしていく気配だ。

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