役所広司、内野聖陽、寺島しのぶ、土屋太鳳ら贅沢キャスティングも見どころ! 映画『八犬伝』は【実】と【虚】が交錯する大作【やくみつるのシネマ小言主義第265回】

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映画『八犬伝』★★☆「ま、よろしかったら」

28年にわたり、一つの物語を描き続けた作家・滝沢馬琴の【実】パートと、106冊にわたる『南総里見八犬伝』の【虚】パートが交互に展開する構成。これは間違いなく大作です。

役所広司、内野聖陽、寺島しのぶ、土屋太鳳など、大河ドラマ並みの贅沢なキャスティング。姫路城、香川県金丸座などの歴史ある建築物でのロケ。奇想天外なファンタジー「八犬伝」の世界を実写化するダイナミックなVFX。どう見ても膨大なお金がかかってそうですが、さすがは木下グループ。いくつもの映画製作を盛んにスポンサードしている木下グループならではと、大いに敬服します。

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では、なぜ星を1点減じたかと申しますと、2時間半の映画のさらに半分の尺に「八犬伝」パートを入れようとすると、どうしてもエッセンスだけをピックアップするしかない。

原作の醍醐味である「8つの珠に導かれ8人の剣士が参集してくる」エピソードが随分とあっさりと描かれている点が食い足りなく感じます。

それと、葛飾北斎を演じる内野聖陽。演技派として定評ある役者さんですが、もっと違う演技プランを彼ならできるのではと思えるぐらい、ドラマ『ゴンゾウ 伝説の刑事』や『臨場』(ともにテレビ朝日系)と同じセリフ回しなのですよ。

よく「キムタクは何をやらせてもキムタク」と言われますが、内野聖陽もそこから一度離れてみては、と思ってしまったわけです。

本作のロケ地を偶然観光 「導かれたかも!」

さて、本作のキーワードである【実】と【虚】の交錯。これは現代の映像芸術全般にも言えることではないかと。ハリウッド映画でも邦画でも、もはやVFXなしにはあり得ず、観客は見事なCGワークに没入するわけです。

本作の見どころである芳流閣の屋根の上での決戦シーンも、江戸時代の浮世絵に描かれた構図とそっくりに仕上げられています。

VFXと浮世絵。手法は違えど、物語の世界をビジュアルとして見せられた観客の興奮は何も変わっていず、当時の人々も「こりゃたまげた」と胸躍らせたのではないか。そんなことを、本作を見ながら思いました。

ところで、エンドロールでロケ地一覧が流れてきますが、その中にあった茨城県常総市の「元三大師安楽寺」。全くの偶然ですが、先週、この寺に立ち寄ったばかりでした。

しかもここ目当てではなく、車を走らせていてふと路肩の看板を見て気になり、寄り道した場所。森の中の風情ある寺なのでロケ地として多用されるようですが、思わず「導かれたかも!」と感じてしまいました。

八犬伝
原作:『八犬伝 上・下』
山田風太郎(角川文庫刊)
監督・脚本:曽利文彦
出演:役所広司、内野聖陽、土屋太鳳、渡邊圭祐、寺島しのぶ他
配給:キノフィルムズ
10月25日(金)より全国ロードショー

江戸時代、人気作家の滝沢馬琴(役所広司)は、友人の浮世絵師・葛飾北斎(内野聖陽)に構想中の新作小説を語り始める。それは、8つの珠を持つ「八犬士」が運命に導かれるように集結し、里見家にかけられた呪いと戦う物語だった。たちまち魅了された北斎は物語の続きを聴くため、足しげく馬琴のもとへ通い、2人の奇妙な関係が始まる。執筆作業は、馬琴のライフワークとなるが、28年の歳月を経て最終局面に差し掛かろうとした矢先、彼の視力が悪化してしまう。

「週刊実話」10月31日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。