「人生を嘆く人にこそ見てほしい」『恋するピアニスト フジコ・ヘミング』は魂揺さぶるドキュメント映画【LiLiCoおススメ肉食シネマ 第297回】

(C)2024「恋するピアニスト フジコ・ヘミング」フィルムパートナーズ
お仕事お疲れさまです。

スウェーデンと日本の血を引く天才ピアニスト。それを聞いただけで私はフジコ・ヘミングさんに興味を待ちました。

テレビ画面を通して聴いた演奏に魂が揺さぶられました。

フジコさんの演奏には人生が込められており、切なさと喜びと悲しみが入り乱れ、私はすっかり虜に。チケットはいつも即日完売で一度も取れなかった。

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「いつか絶対に会いたい!」そんな想いも届かず、残念ながらフジコさんは今年4月にお亡くなりになりました。

2018年にもフジコさんのドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』を見て、過去の苦労にも刺激されました。

今回も前作と同じ小松莊一良監督。信頼し合ってるからこそお話してくれること、魅力的な表情が盛りだくさん。フジコさんは自分をしっかり持っていてカッコ良い。

さまざまな経験があるからこそ思うこと、そして発する言葉の説得力が違う。

さらに、動物を思う気持ちは人一倍。人間嫌いであることも赤裸々に話す。

個性溢れるいくつかの家にも、この作品を通してお邪魔させていただきましょう。

インテリアは誰も真似できないフジコさんテイスト。小さな物一つ一つを大事に思い、すべての物の裏にはストーリーがあり、無造作に置いてある様も絵になります。

また、ファッションもフジコさん自身しか着こなせない。着物の布や髪飾りもため息が出るほど美しい。

もちろん、ピアニストとしての思いも語ります。

このドキュメンタリーはコロナ禍に撮影されたものなので、コンサートが中止になりながらも、どうやって音楽の力でみんなに元気を広めるか。

静かに丁寧に私たちに感動を与えてくれます。

努力と経験で培ったピアノが世界を魅了

それにしても、幼い頃のフジコさんの話は興味深い。

外国人の血が入っているって言わなかった。

でも、このあまりにも厳しい日々がフジコさんの味わいを作り上げてくれたでしょう。

日本でも海外でもイジメられた過去も衝撃的ですけど、最後まで毎日、数時間ピアノの練習を続けていたことも驚き。そして60代でのCDデビューには頭が下がる。

「30代で終わった〜」なんて嘆いてる人たちに特に見てほしい。

たくさんの努力と経験、そして練習のおかげでフジコさんの世界観が全世界に広まりました。

魂のピアノがこれからも私たちの中で生き続けます。

上手な人はいっぱいいます。

でもこんなにも味わい深いピアノはあったでしょうか。

恋するピアニスト フジコ・ヘミング
監督・構成・編集:小松莊一良
出演・音楽:フジコ・ヘミング
配給:東映ビデオ 10月18日(金)新宿ピカデリーほか全国劇場にてロードショー

2024年4月に92歳でこの世を去った世界的ピアニスト、フジコ・ヘミングの日々を見つめたドキュメンタリー。18年に公開されロングランヒットを記録したドキュメンタリー映画『フジコ・ヘミングの時間』の小松莊一良監督が、20年からの4年間にわたる旅路を撮影。サンタモニカ、パリ、東京に家を持ち、愛する猫や犬たちに囲まれながらピアノを弾く彼女の姿をカメラが捉える。23年3月のパリ・コンセルバトワール劇場でのコンサートでは、『ラ・カンパネラ』『別れの曲』『月の光』など数々の名曲を演奏する姿も映し出す。

「週刊実話」10月24日号より

LiLiCo(リリコ)

映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。