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蝶野正洋『黒の履歴書』~“枕営業”告発とハラスメント問題

蝶野正洋『黒の履歴書』~“枕営業”告発とハラスメント問題 
蝶野正洋『黒の履歴書』 (C)週刊実話Web

ある女性タレントが、番組出演の代わりに性的関係を強要されかけたことを暴露して話題になっている。

これは実際にあったことなのか分からないから、事件そのものにはコメントできないけど、個人的に気になったことが2つある。

1つは、枕営業を持ちかけてきた当人よりも、周りであおった「焚き付け屋」のほうに恨みが向いてるということだよね。当人が既に芸能界を引退しているから、現在もテレビに出ている取り巻きたちが目につくということだとは思う。

でも、そういう太鼓持ちは何も考えてない。その場で立てなきゃいけない人がいるからあおっただけで、彼らに罪の意識はない。この女性も、それが分かってるから腹が立つんだろう。

もう1つ気になるのは、これが15年前のことで、それをいまになって告発していることだよ。罪には時効もあるし、刑に服せば償ったということになるけど、こういったパワハラ、セクハラの類は何年前のことでも掘り返されるし、いくら謝ってもずっと言われ続けてしまう。

この風潮がちょっと怖い。誰でも過去をさかのぼれば、他人に嫌な思いをさせたことは必ずある。道場に入って3日で夜逃げしたような新弟子から、いまになって「あの時にかわいがりを受けてつらかったです」とか言われたら、何も言い返せない。まぁ、昔のネタで食ってるのは、俺たちOBレスラーも同じなんだけどね。「何年前の試合でこんなことをされた」という話を、いろんな所でしてるわけだから(笑)。

でも、それはあくまで昔こういうことがあったというだけで、恨みはない。ただ、いまは基準が変わってきていることは理解しておかないといけないよね。

手の抜き方が分かってるやつは仕事ができる

最近はプロレス業界でも、若い練習生が「体が痛くて練習ができません」と言ったら、それ以上は追い込めない。俺らの時代はケガをしていたとしても、「そんなの大丈夫だから試合に出ろ」って言われたけど、いまだったら、それもハラスメントになる。

学校の部活なんかも同じ。体調が悪いのに、無理やり試合に出したら大問題になる。俺はズルしたいほうだから、今風の自分のペースで休めるスタイルのほうがいいとは思う。

ただ逆に言うと、俺たちの時代はハラスメントを受けながらも、どうやってズル休みをするか技を磨いていたってこと。上から言われて無理をしなきゃいけないところで、いかにそこで演技をして休んで、自分のペースを守るか。これはスポーツ選手に限らず、社会で生きていくための重要なスキルだから、学んだほうがいいと俺は思うけどね。

実際の仕事でも、手の抜き方が分かってるやつは、1割ほどの余力を残してギブアップする。常に限界まで頑張るやつはガッツがあるように見えるけど、結局は仕事をまっとうできなくて、周りに迷惑をかけたりするからな。

俺はズルするやつの気持ちがすぐに分かるから、上の立場になってもそれが見える。キツいときはみんな一緒だし、そういうときの泣きの入れ方を見て、こいつは仕事ができるかどうかを判断している。

ハラスメントは、ただ「こうされた」ってだけじゃなく、それにどう対応したかまでが大事だと思う。その経験をみんなで共有して考えることで、ハラスメント問題を撲滅することができるんじゃないかな。

蝶野正洋
1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。『ガキの使い大晦日スペシャル』では欠かせない存在。