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マサ斎藤「イヌワですよ、イヌワ」~一度は使ってみたい“プロレスの言霊”

マサ斎藤
マサ斎藤 (C)週刊実話Web

卓越したレスリング技術と高いプロ意識、そして、信条とする「GO FOR BROKE」(当たって砕けろ)の精神で、日米を股にかけて活躍したマサ斎藤。リング外でもその豪快と明るい性格から、多くの人々に慕われてきた。

「あんなのとまともにぶつかったら、こっちが壊れちゃうよ」とは、かつて新日本プロレスと対抗戦を行うことになった団体の関係者から聞いた言葉だ。つまり、新日勢を指して「技術うんぬん以前に肉体だけで圧倒される」ということで、確かに他団体の選手と比べたときに(少なくとも1990年代あたりまでは)、新日所属選手の分厚い体づくりは図抜けたものがあった。

新日の中でも特に長州力、佐々木健介の系譜や、その影響下にあった選手たちは「まさにプロレスラー」というべき存在感を示していて、おそらくこれには維新軍に始まり、のちに新日でアドバイザー的な役割を務めたマサ斎藤の影響があったのではないか。

斎藤がプロレスラーとしては小兵にあたる身長180センチ(公称)と聞いて、意外に思うファンもいるだろう。そんな体格的ハンディを補うために、斎藤は徹底的に肉体を鍛え上げ、アメリカで刑務所に収監されたときには空き時間をすべてトレーニングに費やし、出所時には体が一回り大きくなっていたとの逸話もある。

テレビの解説で多くの“迷語録”を残す

現在の科学的なトレーニング理論からすると、「ウエートは1時間でも長すぎる」というのが常識とされ、それ以上やってもむしろ筋肉の成長を阻害するといわれるのだが、やはり常識の外にいるのがプロレスラーなのだろう。実際、斎藤式を継承した長州一派がコーチ役を務めていた頃の新日では、2~3時間にも及ぶようなウエートトレーニングが日常的に行われており、それによって、まるで体脂肪までも強化したかのような異端の肉体をつくり上げていた。

新日初期の狼軍団、維新軍の参謀役、そして、アントニオ猪木との巌流島決戦など、リング上での闘いぶりはもちろんのこと、前述のようなトレーニング面や、ビッグバン・ベイダーやスコット・ノートンら外国人選手の発掘&世話係という功労もあってのことだろう。第一線から退いた1990年代の前半あたりからは、プロレス中継の解説者を務めることになり、斎藤はそこで多くの〝迷語録〟を残している。

獣神サンダー・ライガーを山田(恵一)、ペガサス・キッドをクリス、2代目ブラック・タイガーをエディなど、覆面レスラーを本名で呼ぶのは日常茶飯事。正体不祥のキャラクターとして参戦したザ・グレート・オズ(ケビン・ナッシュ)について、その経歴からプライベートまで事細かに明かしたこともあった。

また、正体が分かっているが、あくまで別キャラクターとしてリングに上がっている選手、例えばグレート・ムタ(武藤敬司)やパワー・ウォリアー(佐々木健介)なども、思いっきり本名で呼んでいた。

目標としていた東京五輪イヤー

試合で大技が繰り出され、実況アナが「これは受け身が取れない!」と煽ったところ、「取ってます」と正論ながらも水を差すようなこともしばしば。TEAM2000(チーム・トゥーサウザンド)を「ティーにせん」、G1(ジーワン)を「ジーアイ」など、かたくなに呼び方を間違い続けることも多かった。

蝶野正洋がnWo JAPANを率いていたときのこと。通称〝犬軍団〟として活動していた小原道由に、蝶野が犬の首輪をはめていたぶる場面では、犬と首輪を混同したのか「イヌワですよ、イヌワ」と連呼し、実況アナのみならず視聴者をも困惑させたりもした。さらに、「nWoの狙いは世界制覇」と言おうとして、つい「世界平和」と発言したこともある。

その後、2003年に新日を離脱し、長州のWJプロレス旗揚げに加わった際の記者会見では、言語不明瞭、体も終始震えているような状態で、解説時の様子とつなげて「アルツハイマー認知症なのでは?」との推測もなされたが、これは後に死因ともなったパーキンソン病によるものだった。モハメド・アリも苦しめたこの神経疾患は、頭部外傷に起因することもあるようで、斎藤の罹患もそうした影響があったのかもしれない。

パーキンソン病の症状が末期状態になっても、斎藤は2018年7月14日に亡くなる直前まで、リハビリはもちろんのこと、日々のトレーニングを欠かすことはなかった。最晩年には介助なしでの歩行が困難な状態となっていたが、「東京五輪の年にカムバックする」ことを目標にしていたという。

《文・脇本深八》

マサ斎藤
PROFILE●1942年8月7日生まれ~2018年7月14日没。東京都中野区出身。身長180センチ、体重120キロ。得意技/捻り式バックドロップ、監獄固め。

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