蝶野正洋が“極悪女王”ダンプ松本を語る「観客が熱狂的になる状況をダンプさん自身で作り出したのがすごい」

蝶野正洋(C)週刊実話Web
9月19日からNetflixで配信されている『極悪女王』が話題になっている。

この作品は、かつて存在したプロレス団体『全日本女子プロレス』で活躍したヒールレスラー・ダンプ松本さんをモデルとした実録ドラマ。ライバルとなったクラッシュ・ギャルズ(長与千種&ライオネス飛鳥のタッグコンビ)との抗争や、リング内外で起きたさまざまな出来事が描かれているという。

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ダンプさんがクラッシュ・ギャルズの熱狂的なファンから、リング外で壮絶な嫌がらせを受けたというエピソードも描かれたみたいだけど、俺がヒールとしてリングに上がるようになった頃は、ダンプさんほどではなかった。

これは時代が変わったというのもあるが、ファン層の違いが大きいかもしれない。

ただ、俺も80年代後半に武者修行でアメリカ遠征したとき、日本人レスラーというだけで人種差別的な嫌がらせを受けた。

アメリカのプロレス界では日系レスラーが田吾作スタイル(ひざ下までのタイツ)で悪さをするというギミックが定番で、俺もそれにならってヒールに徹したファイトをすると、詰めかけた観客が「ジャップ!」と罵声を飛ばしてくる。

もちろん、ヒールにとって罵声は声援。多くの観客にブーイングされて、汚いヤジを飛ばされたほうが評価される。何も起きない、静かな試合が一番ダメなんだよ。

俺も観客席で必死になってる中高年女性に対して「うるせぇ、このクソババァ!」と日本語で応えたりして、会場を盛り上げた。

全日本女子プロレスは25歳で定年

俺はリング内なら何を言われてもいいんだけど、プライベートで街に出掛けた際に、日本人というだけで差別されたのはショックだった。

街の人に道を尋ねても平気で嘘を言われるから、5〜6回は聞かないと目的の場所に着かない。飲食店では、最初にアメリカ在住の日系人なのかチェックされて、日本から来てるツーリストだと分かると汚いスラングで罵られたこともあった。 

遠征先が南部の田舎町だったせいかまだ第2次大戦のことを記憶していて、当時はまだ日本人に対するヘイトが残っていたんだよ。頭の中ではそういうものだと割り切っていても、実際に差別されたり、冷たい態度を示されたりするのは堪えるし、ダンプさんもキツかったと思う。

とはいえ、観客が熱狂的になる状況をダンプさん自身で作り出したのがすごい。

ただ、前にブル中野さんから聞いたんだけど、全女は「25歳定年制」という決まりがあって、中学卒業後に入門して約10年で強制的に引退するシステムになっていたという。

これは25歳で辞めれば別の道に進めるという団体側の親心と、新しいスターを生み出すために新陳代謝を即す意味があったらしい。いろいろなことに耐えてようやくトップになっても、強制的に世代交代させられてしまうというのは酷でもある。

それを考えると、本当に時代が変わった。いまや女子プロレス団体も増えてさまざまなバックボーンを持つ選手が活躍していて、海外の団体で人気を集めるスター選手も増えた。そんな時代の移り変わりを想いながら『極悪女王』を見れば、より深く楽しめるかもしれないね。

「週刊実話」10月17日号より

蝶野正洋(ちょうの・まさひろ)

1963年シアトル生まれ。1984年に新日本プロレスに入団。トップレスラーとして活躍し、2010年に退団。現在はリング以外にもテレビ、イベントなど、多方面で活躍。