『サウンド・オブ・フリーダム』はマジで「児童人身売買」問題に切り込む映画【やくみつるのシネマ小言主義 第264回】

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「面白い」というと不謹慎かもしれませんが、最後までグイグイと引き込まれてしまいました。

小児性犯罪組織に誘拐され売買される少年少女を追跡捜査し、摘発するアメリカ国土安全保障省の捜査官を描いた本作。「実話に基づく」と冒頭に告げられていたとしても、子供の奪還作戦があまりに淀みなく展開するため、よくできたクライム(犯罪)映画を見ている気になってしまいます。

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ただ、このおぞましい「児童誘拐、人身売買、幼児性犯罪」の多発が紛れもない現実であること、世界の大問題だということがエンドロールで数字とともに突きつけられます。ここまで映画的に完成度を高くしながら、真正面から問題を捉え、世界に向けて啓蒙しようとした作品を自分は知りません。

最後の最後に、掟破りとも思える「主演俳優からのメッセージ」があります。『この現実から目を逸らさないで。1人でも多くの人と誘い合って映画館で見てほしい』という訴えも心動く見どころです。本編が終わったからと、サッと席を立つことのなきよう。

深刻な問題を取り上げながら、「2023年全米映画興収トップ10」にランクインするほど興行的に成功した映画ですが、実は完成後、5年も経って公開されたそうです。

なぜ公開できなかったのか、どんな圧力がかかったのかをつい想像してしまいます。

現地NGOは児童誘拐に厳重警戒

ところで、本作の誘拐劇の舞台は南米ホンジュラス。自分はある「子育てNGO」を通して、この国の子供を支援し続けていて、今3人目です。 実は、こうしたNGOも児童誘拐については非常に警戒していて、支援する側にもされる側にも住所は教えませんし、手紙も事務所を通じてのみに限られます。

18歳になって支援が終了すると、一切やりとりができないシステムになっているのも、残念ながら違う目的で接近する可能性があるからだそうです。

この映画で子供らが誘拐後に連れ去られている設定のコロンビアにも出かけたことがあります。

あの開放感あふれるカリブ海リゾート地を有する国にも、政府軍の力が及ばないゲリラ支配の地域があると聞かされました。

アマゾンの支流を上がって行ったこともありますが、奥の奥に分け入り、こんなところに?と思う場所にも普通の人の暮らしがありました。本作にはそうした描写もちゃんとあり、リアルに感じました。

それもこれもコロナの前。今では秘境を巡る旅も夢の中のように感じられます。  

サウンド・オブ・フリーダム 
監督:アレハンドロ・モンテベルデ 
出演:ジム・カヴィーゼル、ミラ・ソルヴィーノ、ビル・キャンプ 
配給:ハーク TOHO シネマズ シャンテ他にて全国公開中  

国土安全保障省の捜査官ティム(ジム・カヴィーゼル)は、性犯罪組織に誘拐された少年少女を追跡捜査していた。上司から特別に捜査許可をもらった彼は事件の温床となっている南米コロンビアに単身潜入し、前科者や資金提供を申し出た資産家、さらに地元警察と手を組み、大規模なおとり作戦を計画する。やがてティムは尊い命を救うため、壮絶な闘いに挑んでいく。 
 
「週刊実話」10月17日号より

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。