「話し相手がいないと退屈でしょう?」寂しさに付け込み独居老人の資産を狙う“エセ友達”の恐怖~高齢者友人トラブル(1)~



退去命令を出すと「立ち退き料」を要求

A子は自分の子供や孫を勝手に呼び寄せて同居させると、彼らの生活費まで康子さんに負担させるようになった。

「膨大に増えた食費や光熱費だけでなく、車を買わされたりもしました。旅行に誘われても旅費はすべて私が負担するんです。『なんで私がここまでしなくちゃならないの?』と詰め寄ったことがあるんですが、『遺産を残す相手もいないんだからいいじゃない。こうしていれば孤独死しないで済むでしょ?』と開き直る有様です。A子の身内にほとんどの部屋を占領され、ガラの悪い連中が入れ替わり立ち替わり出入りするようにもなって、いったい誰の家なのか分からないくらいの無法地帯でした」

康子さんは知り合いの弁護士に相談してA子一家に対して「退去命令」を出してもらったが、逆にA子は「立ち退き料」を要求し、康子さんを脅すかのようにチンピラ風の連中を家に居座らせるようになった。

「心の休まる時がなかったです。私は主人と暮らした家を取り返したい一心だったので『お金で出て行ってくれるなら』と要求に応じようと思ったんですが、A子たちに散財されて遺産も残り少なくなっていました。好き勝手に模様替えされたり、ヤニ臭くて薄汚れた家に主人と暮らした面影はなかったので『この先、経済的な不安を抱えて老後を過ごすよりは…』と家をA子一家に明け渡すことにしました。その方が天国の主人も安心すると思ったんです」

「この家はもうお好きに使えばいいわ」

そう言い残すと、康子さんは高齢者用マンションに引っ越した。

「家具などは全部そのまま置いて来ましたが、仏壇だけは持ち出しました。最初は位牌だけにしようと思ったんですけど、あの家に残しておいてめちゃくちゃにされたらたまりませんから。今のマンションは住民が同世代ですし、皆さん良い方ばかりなので楽しく暮らしています。主人の残してくれた家をあんなクズみたいな連中に好き勝手されたのは悔しいですけど、まあ、仕方ないですね」

後日、康子さんが残してきた家は「たばこの不始末」と思われるボヤを出し、A子一家は焼け出されることになった。

「バチがあたったんでしょう(笑)」

現在A子一家の所在は分かっていないが「戻って来たら面倒なので」と康子さんは焼け残った家屋を撤去し、更地となった土地の売却手続きを進めている。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。