オオクワガタの捕獲を目指す採集家集団「インフィニティー∞ブラック」を追った実録書

『オオクワガタに人生を懸けた男たち』野澤亘伸
◆『オオクワガタに人生を懸けた男たち』双葉社/1800円(本体価格) 

――オオクワガタに関わることになったきっかけは何だったのですか?

野澤「小学生の頃は先生から『むし博士』と呼ばれるほどのむし好きでした。毎年夏にクワガタやカブトムシを採って、産卵させて成虫に育てたりしました。ただ、地元ではオオクワガタは採れず、周りに見たことがある人はいませんでした。
連載をしている昆虫専門誌『BE KUWA』(むし社刊)で、3年前にオオクワガタ採集家集団『インフィニティー∞ブラック』のメンバーに初めて会い、天然のオオクワガタ採集を経験させてもらいました。天然個体の持つ無駄のないシャープな体、その地域の特性を受け継いだフォルムに魅了されました」

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――天然のオオクワガタはどのくらい希少なのでしょうか?

野澤「天然個体はとても希少で、非常にすみかにこだわるため、普通のノコギリクワガタやミヤマクワガタのように樹液にとまっていることがありません。太いクヌギやナラなどの木の、高所にあるウロや樹皮めくれの下に身を隠しています。
虫採りを趣味にしている人が本気で探しても、5〜10年近くかかる難易度です。まして東北などのブナ帯で見つけるには、一般の人ではほぼ無理。トップクラスの採集人でも、その域に達するまでには10年近くかかるレベルなのです」

熊との遭遇にも怯みまず週末は寝ずに採集

――『インフィニティー∞ブラック』は、どのような活動をしているのでしょうか?
 
野澤「メンバーは基本的に一匹狼で、各自が自分の知識、経験と考察をもとに、オオクワガタの新たな生息地を探しています。彼らはオオクワガタを採ることが目的ではなく、まだ知られていない生息地を“当てる”ことに生きがいを感じています。
そのためには日本中の険しい山奥にも挑みますし、熊との遭遇にも怯みません。昼も夜も山の中を歩くことになり、週末は寝ずに採集することになります」 

――オオクワガタ採集の魅力とは?

野澤「メンバーは氷河期以降に日本列島が現在の形になり始めた頃の地図から、オオクワガタの分布系路を推測します。自分の推理をもとに10年、15年かけて新規生息地を探し続ける。ついに見つけたときには、第3の目が見開くような興奮と感動が全身を貫くと言います。
私はまだその経験がありませんが、人間を拒むような自然林の中に入っていくだけでも、全身の細胞が呼び覚まされるのを感じます。オオクワガタの採集とは、少年時代の夢を追う、永遠の宝探しなのかもしれません」

聞き手/程原ケン

「週刊実話」10月10日号より

野澤亘伸(のざわ・ひろのぶ)

1968年栃木県生まれ。写真家、作家。上智大学法学部法律学科卒業。1993年より、写真週刊誌『FLASH』の専属カメラマンになり、同誌の年間スクープ賞を3度受賞。その後フリーとなり、雑誌の表紙やグラビア撮影、タレント写真集など多数。2019年に『師弟 棋士たち魂の伝承』で第31回将棋ペンクラブ大賞受賞。