「手をナイフで切られるぞ!」中国・日本人小学生刺殺事件でフラッシュバックした深センの“危険度”【ジャーナリスト・北上行夫】

事件当日の報道番組(中国鳳凰TVより)
中国・広東省深セン市で、日本人学校に登校中の小学生男児(10歳)が刃物で襲われ、殺害された。

当局は現場で44歳の中国人の男を拘束したが、犯行の動機など事件の背景は不明だ。

小学生男児を襲ったブツが「刃物」と聞いて、10年前の深センでの恐怖体験がよみがえった。

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筆者は、現地の公共バスに乗車中、スリの現場に遭遇したことがある。

混雑する車内で小柄な男が、若い女性が背負うリュックサックに手を伸ばし、ファスナーを開けようとしたのだ。

筆者が男に声をかけようとすると、見ず知らずの男性に手を押さえつけられた。

無言で「やめなさい」と伝えようとしていたのである。

そのあと、男性から制止した理由を聞いて驚いた。

「危ないからに決まっている。手をナイフで切られるぞ!」

深センのスリたちは、ファスナー越しにこっそり盗むのはまだおとなしいほうで、リュックだけでなく、財布の入ったズボンの尻ポケットすら切り裂いて犯行に及ぶという。

高級時計をはめた手首ごと切られた凄惨な事件も教えてくれた。

“中国リテラシー”に鈍感な日本人

香港に隣接する深センの別名は「移民城市」。人口約1750万 (2023年)のうち、およそ7割が他省からの移民で構成され、「お互いが見知らぬ隣人」という巨大コミュニティ。

そんな移民系中国人の行動原理は、こんな感じだ。

「せっかく移住してきた深センで、1分1秒を惜しんで香港ドルを稼いで成り上がりましょう。いざとなったら帰郷ついでに行方をくらませばいい」

こうした考え方が深セン発展の原動力であり、犯罪行為すらもその一部なのである。

一方、深センをレジャーで訪れる香港の人々は最大級の警戒を怠らない。

・リュックは身体の正面に抱える
・すばやい動きができるようスニーカーを履く
・保管場所を見られないよう人前でスマホや財布を出さない
・高価な時計やアクセサリー類はできるだけ身に着けない

これほど「危ない街」という認識を持っているのだ。

被害男児が通っていた日本人学校(HPより)
“中国リテラシー”に鈍感な日本人は、総じてターゲットにされやすい。

今回のような痛ましい事件が二度と起きぬよう、海外の日本人はもう一段階、警戒感を上げるべきだ。

北上行夫

ジャーナリスト。香港メディア企業ファウンダー。2001年より日系コンサルタント会社やローファーム向けに中国本土を含むASEAN販路開拓業務に従事。香港人/日本人/大陸人/華僑の不条理に挟まれ20年余、2018年より日本支社プロジェクトマネージャー。2023年より中華圏マーケット調査&ライターが集う「路邊社」に参画。テーマはメディアが担う経済安全保障。

X(旧Twitter):@KitakamiYukio