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変異株の脅威とオリンピック開催~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

変異株の脅威とオリンピック開催~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』(C)週刊実話Web

5月7日、緊急事態宣言が今月31日まで延長されたが、私はその可能性が高いとみていた。変異株の感染力が相当強いからだ。従来株と比べて、変異株による感染は3つの特徴を持っている。

第1は、感染が周辺に拡大していることだ。従来株では、東京で感染が拡大すると、それが大阪や名古屋といった大都市に飛び火し、そこから周辺県に広がっていた。ところが、変異株は大阪を起点にじわじわと東西に広がり続けている。

大阪の感染爆発から3週間のタイムラグを経て、名古屋で感染者が急増した。東京の感染爆発はまだ起きていないが、変異株が主流になったら危ないだろう。

第2は、感染拡大が大都市中心ではなく、それ以外でも起きていることだ。例えば、愛知県では名古屋市以外でも急拡大している。

第3は、密接、密集、密閉の3条件がそろわなくても、感染が起きていることだ。例えば、小学校で初のクラスターが発生したり、2メートルの距離をとっていた舞台稽古で感染したり、出張に同行していた会社員が列車内で感染したり、そのようなことが実際に起きている。

これまではマスクや手洗い、適切な距離の確保といった基本を守れば、感染をほぼ避けることができていたが、それが通用しなくなってきているのだ。

なぜ、そんなことが起きているのか。4月30日の名古屋テレビ『ドデスカ!』に出演した愛知県立大学の清水宣明教授が、大変興味深い発言をしていた。

五輪開催を諦めるところからすべてが始まる

「変異株の感染力が1.3倍から1.8倍高いと言っても、それは細胞内の話であり、変異株は猛烈な勢いで増殖するから、感染者が放出するウイルス量は、従来と比べて数百倍に達している可能性がある」

清水教授の説は、学界のコンセンサスになっているわけではない。しかし、数字は別にして、ウイルス放出量がケタ違いに多いという指摘は、正しいのではないかと思う。いま起きている現象を、すべて説明できるからだ。

これまでの感染拡大は、ウイルスの放出量が体質的に多い「スーパースプレッダー」と呼ばれる感染者が、動き回ることで起きていた。しかし、ウイルス放出量がケタ違いに多い変異株では、マスクを着用していても、多くの飛沫やエアロゾルが拡散されてしまう。

不織布マスクの吸着率は飛沫で8割、エアロゾルで5割程度である。つまり、感染者の多くが事実上のスーパースプレッダー化しているわけで、これが恐ろしい現状なのだ。

日常生活の中で感染が広がるようになると、飲食店などに絞った感染対策では拡大を抑えられなくなる。しかし、それは感染制御が不可能になったことではない。先進国の対策は、①ロックダウン、②大規模PCR検査、③ワクチンの併用だ。イギリスはそれで感染抑制に成功している。ところが、日本はどれもほとんどやっていない。

日本ができない最大の理由は、東京オリンピックだ。特にワクチン接種の遅れを取り戻すため、医師や看護師を打ち手として総動員しなければならない時期に、大量の医療関係者を奪われる事態は深刻だ。

国民の7割が反対するオリンピック開催を諦めるところから、すべてが始まるのではないか。