「サヘルを1人の友人として支えてあげたい」児童養護施設で育った主人公8人の痕跡を辿るサヘル・ローズ監督の映画『花束』【LiLiCoオススメ肉食シネマ 第295回】

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お仕事お疲れ様です。かなり昔に出会った人で、そんなに頻繁に会わなくても何だかんだ繋がってる特別な存在っていますよね。

私の場合、サヘル・ローズがそんな存在。20年以上前に出会い、ブランクはあったものの会えば多くを語らなくても通じ合う。そして大笑いしながら話し、毎回必ず一度は涙する。そんなサヘルが映画を作りました。

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最初は監督をやるつもりはなかったけど、映画に出演してくれる人たちの気持ちを誰よりも理解してるのは、やはり彼女。冒頭の“子どもは親を選べない”がグサッと心を刺す。その言葉からもリアルな心の内が聞ける予感がします。

作品を見るにあたり、楽しみでありながら、とてつもなくディープな話を聞く覚悟もしました。そして彼ら、施設育ちの若者たちがゆっくり語り始める。両親との関係、いや、親との関係すらない人もいます。悲惨な家庭の事情で引き取られ、施設で日々を過ごす。傷ついた心の言葉に寄り添ってしまう。

インタビュー形式だけど、完全なドキュメンタリーではない。脚本を書くために話を聞こうとカメラを向けたけれど、彼らの話より深い脚本は書けそうにないと判断した、脚本家の気持ちが痛いほど理解できます。

生きるって大変。でも素晴らしい

みんなが口を揃えて言うのは「私たちのことをかわいそうと思って欲しくない」。そう、彼らはしっかりと前を向いて生きています。

考えなければいけないのは、いつまでも終わらない複雑な家庭環境の問題。それを知ることの大切さ、そこから生まれる優しさ。自分の誕生日を知らないから、誕生日は楽しくないと1人は言う。でも、誕生日よりも生きていることが大事と言われる。私なら“毎日が誕生日”と言ってしまうかも。

生きるって大変。でも、やっぱり生きているって素晴らしい。サヘルが伝えたいことが痛いほど感じ取れる1本。自ら動いてこの作品を広めているサヘルを、1人の友人として支えてあげたい。

上映は9月19日〜9月21、29、30日『喫茶 壁と卵』、9月20日〜9月26日『MOVE ON山形』、9月20日〜9月28日『深谷シネマ』、10月6日『ヒノキホール六本木』、そして札幌国際短編映画祭、月花舎、宇都宮サザンクロスホール、キネコ国際映画祭と続きます。ぜひ、サイトをチェックして。

人生について、そして作品の冒頭の言葉について考える時間もとても大切。 

花束
監督:サヘル・ローズ
エグゼクティブプロデューサー:岩井俊二 
音楽:SUGIZO 
脚本:シライケイタ 
出演:黄安理、黄佳琳、河野真也、栗原直也、ブローハン聡、星野舞結花、松嶋マジアル、吉住海斗、諸星風羽、サラ・オレイン/佐藤浩市 
製作:ロックウェルアイズ 

児童養護施設で育った主人公8人の実際に生きてきた痕跡を辿るドキュメンタリーとノンフィクション、ドラマを融合させた作品。一見、どこにでもいそうな普通の少年少女たち。しかし、それぞれが幼少期に普通とは言い難い体験をしている。奪われた時間、そして怯え続けた日々の中で彼らが望んだもの、その忘れ難い瞬間をカメラの前で演じていく。

LiLiCo(リリコ)

映画コメンテーター。ストックホルム出身、スウェーデン人の父と日本人の母を持つ。18歳で来日、1989年から芸能活動をスタート。TBS『王様のブランチ』、CX『ノンストップ』などにレギュラー出演。ほかにもラジオ、トークショー、声優などマルチに活躍中。