凄惨な人身事故がフラッシュバック 電車通勤できなくなった勝ち組OLの不運~生活や人生を脅かすネット恐怖症(2)~

精神的に追い詰められ有名企業を辞職

「フラッシュバックって言うんですか? 動画にあったけたたましい警報音とか、電車の急ブレーキの音とか人が電車にぶつかった音とか、そういうのがまず聞こえて来て、その後に映像が思い浮かぶんです。耳を塞いでも目をつむっても凄惨な様子が頭から離れず、思わずその場でうずくまってしまいました」

この日から美玖さんは電車に乗れなくなった。

「そうなるとマイカー通勤するしかなく、私は貯金をはたいて車を買いました。それまでペーパードライバーだった私にとって通勤ラッシュの道路の運転はめちゃくちゃハードルが高くて、何度も接触事故を起こしていますし、運転中は常に緊張を強いられるので車を下りた時はぐったりです。会社から支給される通勤手当ではガソリン代もまかなえず、会社の近くに借りた駐車場代も自腹でした」

精神的にも経済的にも追いつめられた美玖さんは「通勤が負担になっている」として会社に辞職願いを提出。有休消化中の現在は求職活動を行っている。

「条件はバスで通勤できるか、送迎がある会社です。職種についてはこだわりません」

ちなみに美玖さんが在籍していた会社は「名前を聞けば誰でも分かる」有名企業で、美玖さんは高倍率の入社試験を勝ち抜いたエリートだった。

「両親や友人からは『そんなことで会社を辞めるなんてバカだ』とか『そもそもネットでへんな画像を検索したアンタが悪い』などとさんざん責められました。でも通勤できないのだから仕方ないし、見てしまった過去もなかったことにはできないじゃないですか? 駅のホームに立った時の恐怖は私にしか分からないことなので、いくらお説教をされたところで無理なものは無理なんです」

いまだに事故の夢を見るという美玖さんのトラウマは、周囲が考えているより深刻なのである。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。