“ドラレコの功罪”交通事故の動画で車が運転できなくなった40代女性~生活や人生を脅かすネット恐怖症(1)~


車に乗り込むだけで心臓がバクバク

そんな麻衣子さんはその後、とうとう完全に車に乗れなくなってしまったという。

「乗り込むだけで心臓がバクバクしますし、エンジンをかけるだけで手汗がびっしょりです。かろうじて私道を抜けても合流が怖くて一般道路に出られないのです。停止線の前でいつまでも動かずにいる私の車をたまたま見かけた主人が私の異常性に気付き、運転禁止を言い渡されました」

麻衣子さんの居住地は公共交通機関がほとんど発達していないため、生活にマイカーが欠かせない。

「買い物はネットスーパーを利用しています。子供の塾や習い事の送迎などは、同じところに通わせているママ友にお願いしています。それ以外の外出はすべてタクシーです。どうしても遠出をしなければならない時は主人に会社を休んで車を出してもらっています」

不自由な生活を送る麻衣子さんの唯一の希望は来年、上のお子さんが18歳になって運転免許が取れることだという。

「学校の規則では進路が決まるまでは運転免許を取らせてもらえないのですが、うちはこういう事情があるので、特例を認めてもらえるように今から学校に掛け合っています。うちの子供は4月生まれなので、順調に行けばあと1年もしないうちに今の生活から解放されるのです」

地方あるあるで、車は一家に一台ではなく1人1台が当たり前で自転車代わりのようなもの。そういう中で車の運転ができないというのは、死活問題と言っても過言ではないのである。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。