イジメ“加害者”家族の壮絶な運命…当事者の弟は消息不明 それでも帰りを待つ姉「いつか再会した時に渡せるように…」

自暴自棄になり父親の分からない子供を妊娠

そんな逆境にある香織さんを支えていたのが高校時代から付き合っていた彼氏だったが、その彼氏とも破局を迎える。

「彼とは結婚するつもりでしたが、彼は職業上、犯罪者の身内がいてはダメな人だったのです。当初は『関係ないよ』と言ってくれていたのですが、私のことが原因で『昇進試験を受けさせてもらえない』と聞いた時に私から別れを言い出しました。彼の人生の足かせになるわけにいかないと思ったのです。でも、身を引き裂かれるくらい辛かったです」

自暴自棄になった香織さんはアルコールに溺れ、ネットカフェを転々としながら、売春で生計を立てた。

「それで父親の分からない子供を妊娠したのですが、妊娠に気付く前に子宮外妊娠で大出血し、病院に運ばれました」

文字通り、心も身体も空っぽになってしまった香織さんは、カウンセリングを受けながらNPO法人の支援を受けて生活を立て直そうとしていた。

そんな香織さんのもとに、突如として大金が転がり込む。

「母方の祖父が亡くなったのです。本来は母が相続するものですが、母も亡くなっているので代襲相続ということでした」「これで人生をやり直せってことかな」…そう考えた香織さんは大学に入り直し、大学院まで進んで臨床心理士の資格を取得した。

「心理を勉強したいと思ったのは、間接的でもいいからイジメを無くしたいと思ったからです。身内だから言うわけじゃありませんが、弟は本来イジメをするような人間ではありませんでしたし、B君も死なせない方法があったのではないかと考えた時、イジメの加害者や被害者を生まないためにも、他人に対して精神的に寄り添う立場になりたいと思いました。キレイごとに聞こえるかもしれませんが、ウソ偽りのない本音です」

ちなみに前述の遺産は法律上、香織さんとA君で分けることになっており「いつか弟と再会した時に渡せるように、きっちり半分残してある」そうだ。

取材・文/清水芽々

清水芽々(しみず・めめ)

1965年生まれ。埼玉県出身。埼玉大学卒。17歳の時に「女子高生ライター」として執筆活動を始める。現在は「ノンフィクションライター」として、主に男女関係や家族間のトラブル、女性が抱える闇、高齢者問題などと向き合っている。『壮絶ルポ 狙われるシングルマザー』(週刊文春に掲載)など、多くのメディアに寄稿。著書に『有名進学塾もない片田舎で子どもを東大生に育てた母親のシンプルな日常』など。一男三女の母。