“トランプ大統領”誕生は地獄へのチキンレースの始まり? 森永卓郎が警告「世界戦争に発展する可能性もある」

森永卓郎 (C)週刊実話Web
トランプ米前大統領は、本当に強運の持ち主だ。

7月13日にペンシルベニア州バトラーで演説中に、テロリストの放った銃弾がトランプ氏の右耳を貫通した。

銃弾がわずか数センチずれていたら、命はなかった。会場を後にするトランプ氏は拳を突き上げ、屈しない姿勢をアピールした。

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これに共和党支持者らは熱狂した。18日にウィスコンシン州ミルウォーキーで党の大統領候補指名受諾演説を行ったトランプ氏は、「自分だけがこの国を確実な破滅から救うことができる」と豪語した。

候補指名を争ったライバルのニッキー・ヘイリー元国連大使も、トランプ氏への揺るぎない支持を表明するなど、共和党はトランプ氏支持で一致団結したのだ。

その一方で、健康不安がささやかれるバイデン大統領は、大事なところでコロナに感染するという不運で、大統領選からの撤退を余儀なくされ、後任の候補者をハリス副大統領に託した。

それでも大統領選でのトランプ圧勝を見据えた株式市場は、市場最高値更新という形で期待を露わにした。

私は、株式市場の反応は、短期的には正しいと考えている。バイデン大統領はドル高・円安容認だったが、トランプ氏は明確にドル安転換を主張している。

日本国内では、高橋洋一嘉悦大教授が円安を支持し、それに対してひろゆき氏が「通貨が高くなってつぶれた国はないが、安くなってつぶれた国はたくさんある」と円高を支持して、ネット上でバトルを繰り広げた。

ただ、私は高橋教授の主張が正しいと考えている。これまでの歴史をみても、円安のときの方が日本経済の成長率は高くなっているし、私が生業としてきた経済モデルのシミュレーションでも、円安は確実に経済のパイを大きくするからだ。

短期的に世界経済が繁栄しても…

今、円安で日本国民が苦しんでいるのは、空前の利益をあげる大企業を課税強化して、庶民に分配するという本来やるべき政策をやっていないからだ。

トランプ氏は、「大統領就任初日に電気自動車(EV)普及義務を終了する」と述べて、米国の自動車産業の足かせとなり、中国を利することになった環境規制を大幅緩和する方針を明らかにした。

さらに、すべての外国からの輸入品に10%の関税をかけ、中国からの全輸入品に最低60%課税することも提案している。

為替政策を含めて、これらの経済政策は「近隣窮乏政策」だから、アメリカ経済にとって大きなプラスになるのは間違いない。

さらにトランプ氏は、「大統領選で再選を果たせば来年1月の就任を待たずにウクライナでの戦争を終結させる」と述べてきた。

ウクライナに軍事支援の打ち切りをチラつかせて、ロシアへの領土割譲と引き換えに戦争を終わらせるのだ。

それは、「武力による国境変更をしない」という戦後の世界秩序を破壊するものだが、短期的には世界経済の繁栄をもたらすだろう。

もちろん、アメリカの利益だけを考えるトランプ政策に世界は不満を募らせ、数年後にはそれが爆発して世界経済は大混乱に陥るか、世界戦争に発展する可能性もある。

だが、現在、米国株の高騰を支えている投機筋にとって、そんなことは関係ない。彼らは、長くても数カ月後までしか考えていない。

為替の投機家に至っては数秒先しか考えていないのだ。奈落が待ち受ける地獄へのチキンレースが、今後続いていくのだろう。