獄中14年を経て仮出所“リーマン・ショック64兆円破綻”のトリガーを引いた男の衝撃手記『リーマンの牢獄』

『リーマンの牢獄』齋藤栄功

◆『リーマンの牢獄』講談社/2000円

――2008年9月、米国でサブプライムローンが崩壊し、リーマン・ショックを招きました。齋藤さんはその引き金を引いたとされています。

齋藤「すべては『よっしゃ、やったるわ、齋藤さんも大変やな』。丸紅部長に扮した元白バイ警官のその軽い一言から始まりました。結果、リーマンブラザーズから371億円を騙し取ることになりました。
単純なノルマ達成のための偽造書類が、世界経済がサブプライムローン証券化というカオスの中にあったため、リーマンブラザーズが連邦破産法11条を申請するまでに至ります」

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「負債総額64兆円、山一證券の負債総額3兆円の20倍です。犠牲となったのはリーマンブラザーズだけでなく米国、ヨーロッパ、全世界へ波及しました。私はそのトリガーの1つを引いたことにより、懲役15年の判決が言い渡された。
牢獄における過酷な日々は読書によって支えられ、書くことにより自らを照らす言葉に出会いました。その結晶が『リーマンの牢獄』です」

獄中14年を経て仮出所したが…

――丸紅部長の替え玉を登場させるなど、映画さながらの大がかりな芝居が繰り広げられました。

齋藤「07年、巨大投資銀行は、サブプライムローン証券化問題がくすぶり始め、次なる運用対象を求め、日本の医療機関改革へと踏み込んでいきます。それは私が考えていた構想でもあったのです。
ところが、医療機関を攻める糸口がつかめず、診療報酬債権を担保とし、資金面から医療機関を支えるものの、改革というレベルには達していませんでした。
そこへ、“ラーメンからミサイルまで”すべての商流・価格を掌握していると豪語する丸紅株式会社メディカルビジネス部山中譲氏が登場します。巨大投資銀行にとっても、丸紅が相手ならば間違いない、そう考えたのでしょう。
実はこの山中譲氏が考え出した『丸紅案件』こそ真っ赤な偽物。単なるノルマ達成のための嘘の塊でした。それに私自身も乗ったのです。
一旦始めてしまった悪事は、善のために行われるのだと自己陶酔させ、自己を守るためにさらに嘘の上塗りをしていくことになります。その極みが、元福岡県警交通課白バイ警察官に演じさせた偽丸紅部長のドラマです」

――獄中14年を経て仮出所しました。現在のお気持ちは?

齋藤「22年6月、仮釈放されました。しかし、過去は消えません。過去を背負うことで自己の宿命に気付くと信じます。きれいごとで生き抜くことはできないにしても、もがきながら生きることに喜びを見出したいと思っています」

(聞き手/程原ケン)

齋藤栄功(さいとう・しげのり)

1962年、長野県生まれ。86年に中央大学法学部卒業後、山一證券に入社。同社の自主廃業後は信用組合、外資系証券会社などを経て、医療経営コンサルタント会社・アスクレピオスを創業。08年に詐欺とインサイダー取引容疑で逮捕され、懲役15年の実刑判決を受けて収監。22年6月に仮釈放された。