「ヤノマミ族」をご存じですか? 南米の先住民族で、衣服をほぼまとわず、プリミティブな生活をしている部族です。僕は、彼らと会ったことがあるのです。
実はその邂逅の前から、彼らには興味を持っていました。医療技術を持たない先住民族の間では、今でも黒魔術や精霊の力が信じられています。それらを調べているうちに、彼らの存在にたどり着きました。しかし会えるなんて、当然思っていません。これも、ひとつの運命なのでしょう。
1996年、ジャングルを開拓した日系人を訪ねるドキュメンタリーの仕事で、ブラジルに行きました。そこでガイドのブラジル人青年から、「隣のベネズエラのジャングルには、面白い人たちがいる。はっきり言うと、原始人だよ。裸で棒や弓を持ち、狩りをして生活しているんだ」と聞いたのです。さらに聞くと、喜怒哀楽がとてもはっきりしているという。笑う時は転がって笑い、泣く時はみんなでワンワン言いながら泣く。呪術もやっていて、詳しく聞くと何らかの粉を吸い…こう言うとかなり怪しげですが(笑)、その粉や薬草などで痛みを取り除くのだとか。聞けば聞くほど、「会ってみたいな」と感じました。
そのチャンスは、2000年に訪れます。ヤノマミ族に会いに行く仕事が舞い込み、「これは呼ばれているな」という気がしたのです。この時点で、彼らはあの広いジャングルの中で2万人しか存在せず、しかも集合離散を繰り返していました。現代人から病が持ち込まれたり、また部族から離れて暮らし始める人などもいて、「いつかは確実に存在しなくなる部族」と言われています。会えるチャンスは、二度とないかもしれない。断る理由はありません。
殺意に満ちた矢を向けられて…
日本からは飛行機・セスナ・ヘリを乗り継ぎ、3日間かかりました。密林に近づくごとに、ワクワクが高まります。やっと着いた現地。ヤノマミ族との出会いと同時に、僕は命の危機を感じました。なぜなら彼らは、集団で弓矢を僕に向けてきたからです。
通訳もいましたが、日本語からスペイン語と、スペイン語からヤノマミ語に訳する人の2人が同行していました。これだけ間に人を介すると、お互いにきちんと意思疎通ができているのか分かりません。
もちろんこんな危機的状況に突然タレントを放り込むわけはなく、事前にディレクターがロケハンをしていました。そこで彼も同じ目に遭い、「お前はリーダーか?」と尋ねられたそうです。「リーダーは次に来ます」と、彼は答えたのだとか。つまり彼らにとって、リーダーは僕です。
自分の言動ひとつで、何本もの矢が放たれるかが決まるのです。彼らの表情は殺意に満ちているように、僕には見えました。この危機を、どうすれば乗り切れるのか…。一瞬とも永遠とも思える時間、僕は頭の中で考えを巡らせました。
原田龍二
1970年生まれ。ドラマやバラエティーで活躍する一方、芸能界きってのミステリー好きとして知られ、近著に『ミステリーチェイサー原田龍二の謎のいきものUMA大図鑑』がある。現在、『バラいろダンディ』(MX)で金曜MCを担当。YouTubeチャンネル『ニンゲンTV』を配信中。
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