映画『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』は新時代のアナログ特撮! 日本が世界に誇る技術の継承に挑戦【やくみつるのシネマ小言主義 第259回】

(C)2024映画「カミノフデ」製作委員会

『これが新時代のアナログ特撮だ』と宣言しているとおり、監督をはじめとした製作陣は、これが作りたくてしょうがなかったのでしょう。

お客さんに見せるためとか、作品としてどうなのかは二の次で、とにかく作りたいという熱意をヒシヒシと感じました。逆にいうと、それしかない(笑)。

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今年3月にアカデミー賞視覚効果賞を受賞した『ゴジラ-1.0』をはじめ、『シン・ゴジラ』、『シン・ウルトラマン』と、CGを駆使した怪獣映画は行き着くところまで行った感があります。

特撮映像があまりにもリアリティーがあるので、自衛隊や日本政府の対応など背景ストーリーもリアリティーを追求することになり、それが大人の鑑賞にも堪えうる完成度につながっているのでしょう。

本作はその揺り戻し、原点回帰として、アナログ特撮の真骨頂たる作品を残しておかねば、という使命感を感じます。

そこで、『ゴジラ』『ガメラ』『大魔神』シリーズの造形を手掛けたレジェンド、村瀬継蔵さんを総監督に担ぎ出し、日本が世界に誇るアナログ特撮技術の継承に挑戦したのだと思われます。ほとんど伝統工芸ですね。

アナログ特撮マニアがシリーズ化を待望?

さて、本作のメイン怪獣はヤマタノオロチなのですが、致命傷になる落とし穴に気づいてしまいました。

ご存知のとおりヤマタノオロチは8つの頭と尾を持つ日本神話の伝説の怪獣です。火を吐く頭部は見事なのですが、問題は下半身。本作でもぼやかしていますが、ビルを踏み潰す足がないため、ひたすらニョロニョロと頭を振り回すしかないんです。

一方で60年代に初登場したキングギドラは頭を3つに減らし、足と翼を加えたことで、その欠点を克服するアイデアがありました。つまり、オマージュはできても、過去を超えられていないってことなんですよ。

TVを含めてかっこいい新怪獣は長らく出ていない。人間が入って操演するから限界はあるのでしょうが、ここは頑張っていただきたい。とまあ、同じ怪獣マニアの皆さん、本作をネタに持論をぶっていただきたい。

ただ、アナログ特撮の火は消して欲しくない。本作に出てきた「怪魔神」でもう1本撮るなど、シリーズ化を待望しています。

ところで、自分は初めて見た劇場用アニメ映画が『わんぱく王子の大蛇退治』でした。あの映画に出てきたヤマタノオロチの恐ろしさは60年経った今も消えません。

動画配信でも見られますので、夏休みに子供らと本作と比べて、ヤマタノオロチ進化論を語り合うのもオススメです。

『カミノフデ~怪獣たちのいる島~』
原作・総監督:村瀬継蔵
出演:鈴木梨央、楢原嵩琉、町田政則、馬越琢己、吉田羽花、樋口真嗣、笠井信輔、春日勇斗、釈由美子、斎藤工、佐野史郎
配給:ユナイテッドエンタテインメント
7月26日(金)より全国公開 

特殊美術造形家の時宮健三(佐野史郎)が他界し、孫の朱莉(鈴木梨央)は時宮の仕事に良い思い出がなく、複雑な心境でファン向けのお別れ会に参列する。そこで、特撮ファンの同級生・城戸卓也(楢原嵩琉)も来ていた。2人は、時宮が作ろうとしていた「神の筆」という映画に出演する予定だった穂積(斎藤工)との出会いをきっかけに、その映画の世界に入り込んでしまう。そこでは、映画には登場しないはずの怪獣ヤマタノオロチがすべてを破壊しようとしていた。 

やくみつる

漫画家。新聞・雑誌に数多くの連載を持つ他、TV等のコメンテーターとしてもマルチに活躍。