男性の半数、女性の3分の1が75歳まで働く未来がやってくる? 森永卓郎が警告! 年金財政の破綻を防ぐ非現実的なビジョン

森永卓郎 (C)週刊実話Web
厚生労働省は、5年ごとに公的年金制度の「財政検証」を行い、年金の将来見通しを明らかにしている。今年の財政検証の結果が7月3日に発表された。

これまで少子高齢化が進むなかで、年金財政の破綻を防ぐために政府が取ってきたのが高齢就業シナリオだった。

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働き続ける期間を延ばせば、年金保険料を負担する人口が増える一方で年金受給者は減るから、年金財政の改善効果は大きい。

実際、19年に行われた前回の財政検証で「経済成長と労働参加が進むケース」と名付けた標準ケースをみると、2040年の労働力率は、男性の65~69歳が71.6%、70~74歳が49.1%、女性の65~69歳は54.1%、70~74歳が32.6%となっていた。

つまり、男性の4人に3人が70歳まで働き、約半数が75歳まで働く。女性の過半数が70歳まで働き、3人に1人が75歳まで働く。そうした条件が満たされて初めて、日本の公的年金制度を維持することができるというのだ。

70歳まで働き続けるというのは、厳しいけれど不可能ではない。問題は男性の半数、女性の3分の1が75歳まで働くという前提だ。

例えば、健康寿命でみると、男性の健康寿命は72歳、女性は75歳なので、75歳まで働き続けることはかなり難しいのだ。

行き詰まった高齢就業シナリオ

それでは今回の財政検証で、労働力率の想定はどうなったのか。不思議なことに今回の財政検証の資料には、これまでずっと公表されてきた年齢別労働力供給の想定が記載されていない。

しかし、元ネタとなっているのは、労働政策研究・研修機構の労働力需給推計なので、その「成長実現・労働参加進展シナリオ」と名付けられた標準ケースをみると、2040年の労働力率は、男性の65〜69歳が81%(前回比+9ポイント)、70〜74歳は63%(前回比+14ポイント)、女性の65〜69歳は64%(前回比+10ポイント)、70〜74歳は40%(前回比+7ポイント)と、いずれも大幅な増加になっている。

ちなみに、労働政策研究・研修機構の数字は、グラフから読み取っているので、わずかな誤差はあるかもしれない。

ただ、男性の3人に2人が75歳まで働き、女性の4割が75歳まで働く超高齢就業。そうしたビジョンが描かれているのは間違いない。

要は、介護施設から毎日出勤しなさいという話だ。そんなことが可能だとは、誰も思わないだろう。

つまり、高齢就業シナリオは、完全に行き詰まったということなのだ。

今回の財政検証では、その他にも数多くの非現実的な想定がなされている。

例えば、積立金の利回りは物価上昇率を差し引いた実質で3.2%、実質経済成長率は1.8%、物価上昇率を差し引いた実質賃金上昇率は1.5%といった具合だ。

厚生年金の場合、現役世代の手取り収入の50%以上の年金を給付するという政府が掲げ続けてきた目標は、もはや達成できない。

ただ、一つだけ年金財政を好転させる可能性があるのは、平均寿命が今後50年間で4.3歳伸びると想定されている点だ。

現実の平均寿命は2年連続で短命化しており、人口動態統計でみた昨年の死亡率は、10代から30代までのすべての年齢階級で前年を上回っている。

若者が死ぬことで、将来の高齢者が減り、年金が救われるという恐ろしい未来がやってくるのかもしれない。