エンタメ

ワクチン=切り札は大いに疑問!~森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』

森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 
森永卓郎『経済“千夜一夜”物語』 (C)週刊実話Web

河野太郎行政改革担当相が4月18日、「菅義偉総理がファイザーCEOと電話会談し、9月末までに接種対象者すべてのワクチンを確保できることになった」と明らかにした。

当初のファイザー社とのワクチン納入契約は、6月末が納期であり、それがまだ半分程度しか来ない見込みである現実を考えれば、この口約束が守られる保証はない。

また、政府は「ワクチン接種が切り札になる」と、ワクチンさえ到着すれば新型コロナと決別できると言わんばかりだが、たとえワクチンを接種しても、すぐに感染収束となる可能性は低いのではないか。

ワクチンで感染抑制できるという根拠は、イギリスの感染収束だ。イギリスの新規陽性者数は、1月8日の6万8053人がピークだった。奇しくも、日本も1月8日が新規陽性者数のピークだったが、その数は7957人とイギリスの9分の1だった。

ところが、4月18日のイギリスの新規陽性者数は1882人で、同日の日本が4093人だから、イギリスの新規陽性者数は、すでに日本の半分以下になっている。同時期に少なくとも1回ワクチンを接種した国民の割合は、イギリスが48%であるのに対して、日本は1%に満たない。この数字だけを見ると、ワクチンが劇的な効果を発揮したように思えてしまう。

しかし、冷静に考えれば、ワクチン接種を受けたイギリス国民は、まだ半分だけだ。それだけで新規陽性者数が36分の1になるはずがない。もう1つの証拠はアメリカの感染状況だ。アメリカのワクチン接種率は38%と、イギリスに近い数字になっているが、新規陽性者数は7万人前後の横ばいを続けている。

ロックダウンと大規模検査のない緊急事態宣言

イギリスが感染収束に成功した理由は、ワクチン以外に、あと2つ重要な手段を講じていたことにある。1つは厳格なロックダウンで、イギリスは昨年12月19日、ロンドンやイングランド南東部、および東部でロックダウンを宣言した。

仕事は原則として在宅勤務になり、インフラや教育関係など、どうしてもリモートワークができない場合のみ、職場への出勤が許された。レストランやパブなどの屋内営業は禁止され、友人との交流は屋外で最大6人までとなった。徹底した行動制限を行ったのだ。

もう1つの対策は、大規模PCR検査だ。例えば、2月に南アフリカ型変異株の拡大が危惧されると、イギリス政府は、変異株が確認された地域で大規模検査を実施した。検査キットを戸別訪問で配布したのだ。

そして、大規模検査の結果、変異株の感染が疑わしい例を含めて、74人の感染者が見つかったロンドン南部の2つの地区では、11歳以上の全員が検査を受けるように勧告した。感染が深刻な地域の住民を全員検査することは、中国が武漢市や青島市などで行い、感染収束の大きなきっかけとなった手段でもあった。

現在、主流になりつつあるイギリス型の変異株は、感染力が2倍近いといわれている。だから、ワクチンは別にして、少なくともロックダウンと大規模検査をしなければ、感染は収束できないだろう。

しかし、三度目となる緊急事態宣言の中には、そうした対策は含まれていない。これでは感染拡大が止まらないのではないか。

あわせて読みたい