社会

ヤクザのおくりびと⑤「明日も通夜が入っているのに、どうしてくれるんだ」

ヤクザのおくりびと⑤「明日も通夜が入っているのに、どうしてくれるんだ」 
画像はイメージです。本文とは直接関係ありません (C)週刊実話
【不定期連載】 #①から読む

ヒットマンの解放・出頭が無事に終わり、現場となった四ツ木斎場は、幾分落ち着きが戻りつつあった。

中村がホッと一息ついたのも束の間、新たな難題を突き付けられた。

「ちょっと、中村さん。明日も通夜が入っているのに、どうしてくれるんですか? 明日の午後2時までに直してくれないと困るんだけど」

斎場の代表者が、目を吊り上げてにじり寄ってきたのだ。

予約が入っている葬儀を、斎場側がキャンセルはできない。喪主が、既に近親者に会場を案内して情報が拡散し、変更を周知できないからだ。こうした事情は中村も承知しているが、上からの物言いに頭がきた。

「こっちは被害者ですよ。加害者の相手方に請求してくださいよ。本部の電話番号を教えるから『おたくの組員がうちの斎場を壊したから直してください』と言ってみたらどうですか」

さすがに斎場の代表者も「言えませんよ」と返答に窮したが、このまま物別れに終われば今後、四ツ木斎場で葬儀が執り行えなくなる。すでにヤクザの葬儀を断る斎場が増えつつあったため、出禁は避けたいところだ。

ガラスは割れ床は血まみれでトイレも全壊

斎場側が怒るのも無理はない。会場を見渡せば、ヒットマンが撃ち込んだ銃弾によって入り口のガラスが割れている。また、住吉会側の組員が彼らを連れ込んで制裁したことによって、式場の幕はズタズタに裂かれ、被弾した親分たちが横たわった椅子や、その周辺は血にまみれている。トイレも使用不能なほどに壊れていた。

中村は意を決して西口茂男氏に申し出た。

「親分、このままにしておいたら次から借りられなくなります。お力を貸してください」

西口氏も、その言葉が意味するところは十分に理解していた。

「そりゃそうだ。ここは中村の職場だもんな。お前の顔を潰すわけにはいかない。うちのほうで直すよ」

「じゃあ、みんなを使っていいですか?」

「ああ、いいよ」

西口氏の了解を取り付けた中村は、斎場用の館内放送のマイクに向かい、声を張り上げた。

「この斎場は、どうしても明日も使うものですから、修理のために皆さんのところでガラス屋や清掃業者、色んなところに電話してください」

中村と西口氏の関係性を知る組員たちにすれば、この要請が誰の意向を汲んだものかは言わずもがなだ。あちこちで携帯電話を取り出し、「ちょっと今から来てくれねーか」などと関係先に連絡を入れ始めたのだ。

ただ、当日はお盆明けの土曜日。業者の動きが鈍い恐れがある。業者を確保し、万全な作業をしてもらうため、中村は二の矢を継いだ。

ヤクザのおくりびと#⑥に続く

ヤクザのおくりびと⑤「明日も通夜が入っているのに、どうしてくれるんだ」 

中村和男(なかむら かずお)
東京・杉並で二代続く葬儀社を営む家庭で生まれ育つ。大学卒業後、20代で自らの葬儀社『日葬祭典』を創業。1970年代に、後の住吉会総裁となる西口茂男氏の知己を得て、同氏が率いていた住吉会向後一家(当時)関連の葬儀に携わるようになる。以降、住吉会葬や関東二十日会葬まで執り行い、〝住吉会指定葬儀社〟を自負する「ヤクザのおくりびと」

ブログ『日葬祭典 回想録』

あわせて読みたい