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虫歯でもないのに全ての歯を抜かれた!毎日下痢に悩まされたフランス国王ルイ14世

毎日下痢に悩まされたフランス国王ルイ14世
毎日下痢に悩まされたフランス国王ルイ14世(C)週刊実話Web  ※画像はイメージ です

こんなに痛いなら死んだほうがマシ?! 恐ろしすぎる治療法の世界史③

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東茂由(ひがし しげよし)
1949年山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。『週刊実話』健康ページをはじめ、様々な健康雑誌等で精力的に取材、執筆活動を行う。ロングセラーとなっている『長生きしたければ朝食は抜きなさい』(甲田光雄医師監修/河出書房)など著書多数。
ブログ https://www.higashi-news.com/

太陽王と称され、ブルボン王朝に最盛期をもたらしたフランス国王ルイ14世(1638〜1715年・在位1643〜1715年)はじつは不潔大王だった。

王は、虫歯でも歯周病でもないのに全部の歯を失っていた。それは侍医のダカンが特殊な学説を主張したからだった。

それは、人間の歯はあらゆる病気の感染の巣であり、1本でも歯がある限り、何かの病気に感染するおそれがあるというものだった。

「王たる者、何より健康が大事」だと、嫌がる王に承知させ、全部の歯を抜くことになった。

麻酔はなく、王は抜歯の激痛に気丈にも耐えたが、下顎の歯とともに顎まで砕かれ、上顎の歯とともに口蓋の大半を取り除かれた。

その後、下顎はくっついたが、上顎は穴のようなくぼみになってしまった。しかも、そのあいだ、傷跡ともいうべき口蓋のくぼみを殺菌するために熱した鉄の棒でくり返し焼灼したという。

抜歯に続く焼灼、よくぞ拷問に耐えたものだと思う。信じられないが、さすが太陽王といわれただけのことはある。

しかし、歯がないと物を嚙んで食べることはできない。当時のヨーロッパに入れ歯はあったが、それは顔貌の形態を保つためのもので、実用に供するものではなく、装着してものが食べられるような入れ歯はなかった。そのため、王は生涯歯無しの生活を送ることになった。食べ物は嚙めないため、飲み込むだけだから、当然消化不良に悩まされる。

そこで王は毎日、下剤を飲まされ、食べては下し、下しては食べのくり返しの生活に陥った。1日に15回以上も便器に座ったという記録もある。排泄物をもらすこともしょっちゅうだった。侍医は王にたいし浣腸もほどこしたが、浣腸でなく洗浄を行なったという記録もある。

排便しないと腸障害、毒気とめまい、痛風の発作が起こるので、その予防として常に排便をうながすためだった。当時は、毒気がたまると頭の働きが悪くなると考えられていた。王は年間、212回も浣腸(洗浄)をされたという。

当時の王侯貴族のあいだでは、排便に「穴あき椅子」が広く使われた。この椅子に座って用を足すが、宮殿の寝室1つひとつに、この椅子が一脚ずつ備えつけられていた。

王は、この椅子に座って執務し、接見した。人に会い、話をしながら排便するのである。だから王のまわりでは常に排泄物の臭いが漂っていた。

下剤や浣腸で下痢をうながし、腸を空にしておくことは健康に重要だと考えられていたが、それは欧州では古代以来の常識だった。

麻酔なしの痔瘻手術中に執刀医を励ました

太陽王の象徴となったベルサイユ宮殿は、華やかなイメージでとらえられがちだが、宮殿にただよっていたのは排泄物の臭いだった。宮殿内や庭でこっそり排泄するのがふつうで、そのうえ、王にいたっては執務しながら排便したのである。

太陽王は不衛生王だった。風呂に入ったことはなかったし、ひげもたまに剃るていどで、手や顔を洗うのもまれだった。不潔な生活の影響もあるだろうが、 何度か大きな病魔に襲われた。

48歳のときの1686年1月、王はお尻に痛みを訴えるようになった。痔瘻である。

最初、パップ剤の湿布などの方法を行なったが、さして効果はなかった。そこで、次に外科処置の焼灼術を行なった。焼いたところに痂蓋が形成されたので、それをメスで切開すると、排膿が続いた。

しかし、外科医は完全に排膿するには手術するしかないと決断し、王もこれを了承し、手術に踏み切ることになった。

そこで、外科医は王の手術を半年間先に延ばし、全国から患者を集め、それらの人たちを練習台にして手術を行なった。リハーサルとしての手術の結果、多くの犠牲者が出て、命を落とした人もいた。

そして本番を迎えた。無麻酔下の手術だが、王は手術のあいだずっと雄々しく振る舞った。あたう限りの忍耐力で過酷な手術を乗り越えた。弱音を吐くこともなく、悲鳴を上げることもなく、それどころか、神経を張りつめ、汗にまみれる医師を「がんばれ」と励まし続けたという。

手術は成功した。それは注目すべき結果で、同じ手術をしてもらうために地方から希望者が押し寄せたという。

ルイ14世は76歳まで生きたが、王として受けた治療とそれによるハンディキャップは、医師と医療の犠牲となった人生というしかない。

それにしても、王は全部の歯を抜くことによく同意したものだと思う。痔の手術のときも、自分の痛みはさておき、医師を気遣ったというのであるから、なんという人のよさなのだろうか。

それとも、フランス国王は、かくあらねばならなかったのか。王の矜持や内面はうかがい知れない。

現代の私たちが中世のフランス王に生まれるわけがないが、王に生まれなくてよかったと、つくづく思わされる。

▼東茂由著『恐ろしすぎる治療法の世界史』(河出書房)より
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309485614/

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