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麻酔なしで膀胱を切開!結石を摘出するために傷口からグリグリ指を入れる

麻酔なしで膀胱を切開!結石を摘出するために傷口からグリグリ指を入れる
麻酔なしで膀胱を切開!結石を摘出するために傷口からグリグリ指を入れる(C)週刊実話Web  ※画像はイメージです 

こんなに痛いなら死んだほうがマシ?! 恐ろしすぎる治療法の世界史①

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東茂由(ひがし しげよし)
1949年山口県生まれ。早稲田大学教育学部卒。『週刊実話』健康ページをはじめ、様々な健康雑誌等で精力的に取材、執筆活動を行う。ロングセラーとなっている『長生きしたければ朝食は抜きなさい』(甲田光雄医師監修/河出書房)など著書多数。
ブログ https://www.higashi-news.com/

『外科の夜明け』は、20世紀のドイツの記録作家ユルゲン・トールワルドが、近代外科医学が著しい進歩を見る前の1世紀にわたる、幾多の先人たちの苦闘を描くドキュメントで、世界18か国語翻訳され、国際的なベストセラーになった秀作として知られる。

主人公は若き医師で、その医師の見聞や体験を通して語られている。講談社文庫版(塩月正雄訳)に、19世紀半ばの膀胱結石の手術の場面がリアルに描かれている。抜粋して紹介すると──。

1854年の3月、それはカンブールというインドの小さな町で始まった。

男の子の両足はこわばっていた。医師の助手が、少年の体をしっかりと押さえ込んでいたからだった。医師は、少年の膀胱の中で結石に向かって押しつけていた油を塗った指を引き抜いた。傷口から滴る血でまっ赤に染まった医師のナイフは、男の子の会陰部に深く食い入っていた。

ナイフは会陰から膀胱に切り込み、目にも止まらぬ敏捷さで、肛門と会陰の間を切開した。ナイフが抜き取られたとき、少年は苦痛の余り、頭を前後に激しくゆさぶり、更に胸を締め付けるような悲鳴を咽喉の奥からふりしぼった。

医師は人差し指を傷口の中に押し込み、膀胱の中の結石をまさぐったが、すぐには見つからない。指がもっと深く膀胱の中に入り込むように、拳で血が吹き出ている会陰を圧迫し、同時にもう片方の拳は、上方から少年の鼠径部を押しつけて、傷口の指のほうに結石が出てくるようにした。鋭い悲鳴は、苦痛にのたうつ獣の咆哮のように、高く、また低く波うち、やがて疲れ果てて次第に薄れていった。凄絶な格闘の後、なんとか結石は取り出すことができた。

丸焼きチキンのように縛りあげられる患者

欧州では古代から膀胱結石が多く、17世紀には、流行の病気のひとつだった。膀胱結石を取り出す「切石術」という手術は、大昔から行なわれていた。しかしその方法は、18世紀になってもほとんど進歩していなかった。

麻酔も消毒薬もなしに体に刃物を入れる手術は野蛮で、患者はひどい苦しみに耐えなければならず、ときには死ぬことさえあった。ただでさえナイーブな場所である。危険をともなうだけでなく、患者に大変な屈辱を強いた。

まず、メスを入れる箇所をあらわにするために、患者は丸焼きチキンのように縛りあげられる。そして手術台にあお向けに寝かされ、両足首と両手を縄できつく縛られ、陰部を丸出しにさせられる。

外科医は直腸に指を差し込み、石を探りあてると、それをなるべく皮膚側に押し出す。そして、性器から肛門にかけての会陰筋にぶすりとメスを入れて開き、鉗子で石をつまみ出す。尿道に金属ゾンデを挿入することもあった。それで石の場所を特定するのだが、ときにはその経路で石を取り出すこともあった。

日記作家のサミュエル・ピープスは、1658年に膀胱結石で切石術を受けた。日記のその一文は、『外科の歴史』(W・J・ビショップ著、川満富裕訳:時空出版)などに引用・紹介されている。

それによると、彼に手術を行なったのは、聖トーマス病院の外科医で切石術の専門家トーマス・ホリヤーだった。「ある年に彼が行なった30例の切石術は全例とも生存したが、その後の4人の患者はみな死亡した」とピープスの日記には書かれている。

『解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯』(ウェンディ・ムーア著、矢野真千子訳:河出文庫)には、「18世紀のパリでは、この切石術で5人のうちふたりが死亡した」との記述があり、さらには、

イギリスでも似たようなものだっただろう。いや、当時の状況を考えれば、この死亡率はけっして高くない。解剖学の知識が不十分な外科医がメスを入れて1時間もおろおろしていれば、そのあいだに患者は出血大量で死んでしまう。

と述べられている。当時は衛生状態も悪く、致命的な感染症にかかる確率が高かった。感染症の知識もまだ乏しく、外科医は自分の汚れた手や手術道具が患者を危険にさらしているとは思いもしなかった。

『爆発する歯、鼻から尿 奇妙でぞっとする医療の実話集』(トマス・モリス著、日野栄仁訳:柏書房)には、自分でヤスリを使って膀胱を切除する、東インド会社で大佐を務めていたフランス生まれのクロード・マルタンの話が出てくる。

マルタンは、結石の治療は自分でもできると確信していた。それほど器用でなくても可能で、他人にやらせるのは不可能だ。なぜなら、どこが痛むのかは自分自身にしかわからないからだ、という。

先の『外科の夜明け』における、インドでの切石術を見ると、なるほど、マルタンがいうことが正しいとの気もしなくはない。

ヤスリは、クジラの骨を柄にして先に編み針を付けたもの。とても小さいので、結石と膀胱の壁のあいだに簡単に挿し入れることができるというが、やはり会陰部を切開して挿入したのだろうか。それにしても、よく勇気があるものだと感心させられる。

想像するだけで、会陰部のあたりと肛門にへんな感覚が起こりそうな気がする。現代も「切石術」という名前の手術は行なわれているが、激痛に苦悶することはない。

▼東茂由著『恐ろしすぎる治療法の世界史』(河出書房)より
https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309485614/

 

 

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