「1回目の緊急事態宣言が明けて、去年の夏ぐらいからは少しずつお客さんも戻って来ていたんです。毎月必ず北陸から来てくれているお客さんがいるんですけど、以前のように来てくれるようになって、ようやく落ち着いてきたなと思っていたんです。ところが、去年の11月ぐらいから、またコロナが増え始めたじゃないですか。その頃からキャンセルも増え始めて、二度目の緊急事態宣言、そして、東京に『まん延防止等重点措置』が出て、かなり厳しい状況ですよね」
新型コロナウイルスの猛威はとどまることを知らず、三度目の緊急事態宣言の可能性もある昨今。千葉県松戸市でデブ専のSMクラブを経営するルミは、不安気な表情で言った。
彼女が経営するSMクラブは、店舗型ではなく、マンションの一室を事務所としている派遣型の店である。
私がルミと知り合ったのは2年ほど前のことだ。経済的に厳しい生活を強いられている風俗嬢を取材していた時、業界の事情通だということで紹介されたのがルミだった。風俗街とコロナをテーマとしている当連載だが、今回は風俗とともに生きてきた1人の女性に焦点を当ててみたい。
ルミが経営するSMクラブは、恰幅のよい女性が所属するデブ専と呼ばれるカテゴリーに属している。彼女自身も体重100キロを超え、もともとは風俗嬢としてこの業界に入った。事務所となっているマンションのリビングルームに座っている姿は、こんなことを言っては女性に失礼だが、相撲取りの稽古を見つめる親方のような貫禄があった。
しかし、堂々とした体型とは裏腹に人当たりは柔らかく、小気味よい口ぶりで、次から次へと自身の話から業界のことまで話してくれる。訪ねるたびに取材を忘れて彼女の話に聞き入ってしまうのだった。
売り上げは20年前の15%程度に…
私はコロナのニュースが流れ、中小企業の倒産、大阪での変異株の増加など、陰鬱なニュースを耳にするたびに、ルミの経営する店が気にかかり、連絡を取ったのだった。電話に出た彼女の声音は以前と変わらないように思えた。昨今の状況を聞かせて欲しいとお願いすると「いつでもいいですよ」と、応じてくれた。
事務所のあるマンションにお邪魔すると、玄関の水槽に琉金が泳いでいるのは、変わらぬままだった。金魚の姿を目にした時に何となくほっとした気分になった。
「どうぞ、入ってください」
中に入ると、ルミの声が聞こえてきた。声だけでなく、リビングにどっしりと腰をおろしているルミの姿は以前と変わらぬまま。しかし、普段と変わらぬ様子とは裏腹に、経営は厳しいようだった。
「この業界って、以前と比べたら大変にはなっているんですけど、それでもコロナ前は食べていくだけなら何とかなりました。だいたい平均すると、月に100万円ぐらいは売り上げがあったんですけど、緊急事態宣言が出てからは、半分ぐらいになってしまいました。ちなみに、先月の売り上げは47万3000円でした」
その金額を聞いて驚いた。ここには6人の風俗嬢が所属しているからだ。
「とてもじゃないですけど人には言えない現状ですね。悲しくなってしまいます。私が20年前に始めた頃は、少なくても月に300万円はありましたからね。このところ数カ月は、毎月10万円ぐらいを持ち出しています。広告費、家賃、光熱費などで、運転資金は毎月最低でも50万円ぐらいはかかるんです」
ルミに、運転資金の内訳を聞いた。
「家賃で13万円、広告費で15万円、光熱費が5、6万円、食費が4、5万円、電話代が7万円。それに、ガソリン代とか雑費を入れると50万円ぐらいになるんじゃないですかね」
心の根っこから滲み出た自助の思い
持続化給付金や家賃補助などは受けたりしないのだろうか。
「そういう国からの補助は一切受け取ってないです。そういうお金を受け取ると、税務署からも目をつけられることになりますし、極力目立たないようにやるのが一番だと思っていますから。こういう大手を振って歩けない商売をしている人間は、国からお金をもらったりしない方がいいんですよ。ただでさえ常に見られていると思うのでね」
その言葉には、政府を頼ろうとするのではなく、心の根っこから滲み出た自助の思いがあった。まずは己の身を削ろうという覚悟を感じた。コロナが収束する気配はないが、それでもルミが経営を続けているのはなぜなのだろうか。
「私のことを頼ってくれている女の子もいるんでね。その子たちのためにという思いもありますし、まだまだこの業界で頑張ろうという気持ちもあります。限度はありますけど、意地でも続けていきたいと思っているんです。それと、私自身が離婚を経験して、経済的に追い詰められた時に、風俗で稼がせてもらって何とか人生をやり直すことができた過去があります。だから、経済的に苦しい女の子にも生きる場所を用意してあげたいんです」
この連載では、コロナ禍であっても、客が以前と同じようについている女性であったり、窮状を装って多額の現金を貢がせる女性など、したたかに生きている女性たちの姿にフォーカスしてきた。そんな女性たちと違って、ルミは苦しい日々の生活を隠そうとしない。
彼女は歯を食いしばって、このコロナ禍を乗り切ろうとしているのだった。
八木澤高明(やぎさわ・たかあき)
神奈川県横浜市出身。写真週刊誌勤務を経てフリーに。『マオキッズ毛沢東のこどもたちを巡る旅』で第19回 小学館ノンフィクション大賞の優秀賞を受賞。著書多数。
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